執筆者:冨田 健太郎(信州大学 工学部内 アクア・リジェネレーション機構)
幸い、筆者はパナマでの青年海外協力隊(Japan Oversea Cooperation Volunteers: JOCV)[1]において、1992年-95年の3年間、劣悪な酸性土壌の改良という野外での研究を実施してきた。そして、任期途中の1994年から、同土壌条件において、植林、牧畜生産およびアグロフォレストリーの中のシルボパストラル[2]に関する基礎研究にも関与することになった。この時期から、『アグロフォレストリー』という概念に関心を持つようになった[3]。前エッセイでも記したが、社団法人 国際農林業協力協会[4](Association for International Cooperation of Agriculture and Forestry: AICAF)による海外農業協力専門家長期研修(1996年4月-11月まで)開始前の2月に、中米コスタリカのトゥリアルバ(Turrialba)地区に本部を有する熱帯農業研究教育センター(Centro Agronómico Tropical de Investigación y Enseñanza: CATIE)の植物遺伝資源部(前エッセイ参照)の他、アグロフォレストリー部門(樹種の遺伝資源の保全含む)も訪問した。なお、この地区の土壌は、米国農務省の土壌包括分類法(Soil Taxonomy)により、インセプティソルに類別され、年降水量は2636mmおよび海抜602mである。
実は、コスタリカでのアグロフォレストリーに続き、1998年11月-99年5月まで、ケニアにJICA短期専門家として赴任中、ナイロビ(Nairobi)市に本部を有する国際アグロフォレストリー研究センター(International Centre for Research in Agroforestry: ICRAF[5])も活用し、ケニア国内での様々な事例を観察することができた。これらの学習成果は、間接的に、再びパナマの2ヵ所の任地において還元することができた。最近、2023年度のスーパーエルニーニョ現象に加えて、無計画な森林伐採による慣行的な農牧業が、微気候の変動を促進・乾燥化により、パナマ運河やアマゾン河渇水問題を発生させた。これを食い止め、低環境負荷農牧林生産の実施・確立においても、パナマでのアグロフォレストリーの事例は、その基礎となる部分であると自負している。これと関連付けた形として、このアグロフォレストリーは、大規模農牧林生産と小農による文化生態系保全型農業の共生ができるとして、筆者は捉えている。さらに、観光農業や環境教育の材料としても利用できよう。
いずれにせよ、関心ある研究者や政策関係者らの方々の他、ラテンアメリカ関心者やスペイン学習・習得者にとっても、何らかの知見となれば幸いである。
筆者はJOCVとして1992年-95年の3年間、劣悪な酸性土壌の改良という野外での研究を実施してきた。そして、任期途中の1994年から、同土壌条件において、植林、牧畜生産およびアグロフォレストリーに関する基礎研究にも関与することになった。この時期から、『アグロフォレストリー』という概念に関心を持つようになった。

図1 コスタリカ共和国のマップ
前エッセイでも記したが、AICAFによる海外農業協力専門家長期研修(1996年4月-11月まで)開始前の2月に、中米コスタリカのトゥリアルバ地区(図1)に本部を有するCATIEの植物遺伝資源部(前エッセイ参照)の他、アグロフォレストリー部門(樹種の遺伝資源の保全も含む)も訪問した(写真1)。なお、このアグロフォレストリーについては、2000年ならびに2001年当時も、同センターを訪問して、新たな情報を入手することができた。最初に、樹種の種子遺伝資源保全部での活動を簡易的に報告していく。

写真1 CATIEの事務所, 2001
一年生作物や生体保存される作物の他、CATIEには有用樹種の遺伝資源の保全にも力を入れていた(写真2-写真4の左)。そして、一定期間をおいて、種子の発芽試験も実施されていた(写真4の右)このような樹種は、基本的にはアグロフォレストリーの活用においても重要なものである。

写真2 大型で多量の樹種の種子を精製する機器, 1996

写真3 種子乾燥機(水分を7%-8%にする), 1996

写真4 樹種の種子のアクティブコレクション(左)および発芽試験, 1996

表1 アグロフォレストリーに採用される代表的な早生樹(本稿紹介のものに限定)(出所 CATIEよりの情報を著者が整理した, 1999)
1).アグロフォレストリーに採用される代表的な樹種のリスト
表1にアグロフォレストリーに採用される代表的な早生樹を示す。大部分が中米および南米北部の熱帯地域を起源地としている。その一例が、注釈と重複事項となるが、マメ科樹種を肥料林木として用いて(根粒菌による空中窒素固定作用に注目)、土壌の肥沃度向上を図ることの他、肥育牛の庇陰樹ならびに囲い林として活用する方法もある。この他、傾斜地に植樹して土壌侵食の軽減、マメ科灌木であれば、家畜の飼料木として活用する方法もある。なお、有名なマメ科灌木の代表例として、Leucaena leucocephala(和名はギンネム)、Gliricidia sepium(和名はグリリシディア)、スペイン語でPelo de Ángel(赤い天使)と称する花をつけるCalliandra calothyrsus(和名はカリアンドラ)やSesbania sesban(和名はセスバニア)等が挙げられる。

写真5 ケニアでのグリリシディア (Gliricidia sepium), 1999(左)&パラグアイでのギンネム (Leucaena leucocephala), 2011(右)

写真6 ケニアでのセスバニア (Sesbania sesban), 1999(左)&カリアンドラ (Calliandra calothyrsus), 1998(右)
これらマメ科の灌木は、生育が早いためICRAFのスタッフによると、写真6左のセスバニアの場合は播種3ヶ月であり、実際、10ヵ月で3m程度にも生長するという。この樹種は、地力回復の他、小農に対しては燃料用薪として伐採・市販できる。この他、マメ科飼葉は家畜にとってタンパク源でもあり、ケニアでは写真6右のカリアンドラ飼葉を乳牛飼料の代替物として活用していた。つまり、多目的利用樹種であり、林業を目的としたものではないのである。

図2 ケニアのイースタン州のエンブ(Embu)およびウエスタン州のヴィヒガ-マセノ(Vihina-Maseno)地区, 1999
3).東アフリカのケニアでの小農に浸透技術事例
さらに、ICRAFの技術を採用していた小農の現場として、のヴィヒガ-マセノ(Vihiga-Maseno)地区(ケニア西部のビクトリア湖の近く)を訪問した(図2および写真7)。いずれにせよ、CATIEを含めたラテンアメリカ諸国の研究機関やICRAF等では、この領域の専門家は、筆者の知る限りでは、林学ではなく、土壌肥料学者が担う傾向にあった。写真7において、ケニアでの事例を略記すると、マメ科樹種カリアンドラは乳牛のタンパク源として、生乳生産量を高める。そして、チトニアは緑肥用樹種として注目され、実際、小農の圃場においてもマルチングが実践されていた。同写真右下は、トウモロコシ収穫後、マメ科樹種セスバニアを植樹することで、休閑地として土壌肥沃性回復を図る(根粒菌による空中窒素固定に依存)。それと同時に、胸高直径2cm以上は炭・薪材として市販可能(播種し

写真7 ICRAFの技術が小農のフィールドにも還元, 1999

写真8 Erythrina berteroana, 1996(左)およびErythrina poeppigiana, 2000(右)
1).CATIEの実験圃場にあった代表的なマメ科灌木
写真8にコスタリカでも有名なマメ科樹種であるエリスリーナ2種を示す。一般名では、両学名ともポロ(Poró)と称されている。
これらは有名なマメ科灌木の一つであり、樹根に着生する根粒菌の作用により、空中窒素固定作用を活用して、土壌の肥沃化を図ることに利用されている。このことは、外部からの化学肥料や易分解性有機質肥料の施用を控えることも可能となる。つまり、石油資源の節約を考えた環境に優しい技術の一つとなる。
2).CATIEの実験圃場にあった製材用樹種(庇陰)+コーヒー
さらに、コーヒー栽培における一つのアグロフォレストリーの事例も学習した。それは、製材用・多目的に利用される大型の樹種の下に、コーヒーを栽培するというもので、その樹種として月桂樹Laurel (Cordia alliodora) やセドロCedro (Cedro amargo)等が使用されている(写真9)。製材用樹種は、材生産の他、コーヒーにとっては庇(ひ)陰(いん)を提供するため、庇陰樹とも称されている。この庇陰を提供することによって、コーヒーの品質を高めることができるのである(写真左)。なお、同写真右は、前記マメ科樹種Erythrina berteroanaを混植することで、地力の維持に努めているという事例である。

写真9 製材用樹種月桂樹Laurel (Cordia alliodora)やポロとのコーヒー栽培の事例, 1996

写真10 コスタリカにおける傾斜地コーヒー栽培での製材用樹種の庇陰および傾斜地土壌保全に関するアグロフォレストリーの事例, 1996
3).傾斜地コーヒー栽培おける庇陰樹の事例
写真10はサン・ホセ(San José)市からCATIEのあるトゥリアルバ地区へ移動中のバスから撮影であるが、傾斜地コーヒー栽培でのアグロフォレストリーの一事例であり、庇陰効果の他、傾斜地土壌資源の保全の役割も担っている。同様に、写真11においても、傾斜地でのコーヒー栽培の事例を示す(バス内での撮影)。

写真11 コスタリカにおける傾斜地コーヒー栽培における庇陰樹の事例, 2000
4).アラフエラ市近郊のコーヒー栽培における庇陰作物プランティンの活用
2009年11月16日-20日まで、筆者はラテンアメリカ国際土壌学会(Sociedad Latinoamericana de la Ciencia del Suelo: SLCS)に参加し、口頭ならびにポスター発表を実施した。SLCSも大きなイベントで、3年-4年間隔で実施される一つの国際イベントである。この年の当番国がコスタリカであり、首都サン・ホセ市近郊のアラフエラ(Alajuela)県アラフエラ市のホテル(名称:Hotel Ramada Plaza Herradura)で開催された。ちなみに、同国国際空港であるファン・サンタマリア国際空港(Aeropuerto Internacional Juan Santamaría)は同県同市内にあり、同市内宿泊も含めて比較的移動が楽であった。さて、初日の16日は、SLCS参加者が何名か集まって、近場のコーヒー農園を訪問した。
写真12に同農園のコーヒーを示す。同写真左は未熟状態で緑色の果実が多いが、同写真右は赤色で熟した果実が多いことが分かる。この赤い果実から、コーヒーマメを取り出し、十分に乾燥させてものが、やがては市販のコーヒーマメとなる(詳細は割愛)。

写真12 コーヒー近景, 2009
1996年および2000年の頃は、コーヒーにおけるアグロフォレトリーには製材用樹種が庇陰樹として採用されていた。しかし、このコーヒー農園を訪問して驚いたことは、製材用樹種の他、その代わりに、プランティン(料理用バナナ)を庇陰作物[6]として活用した事例であった(写真13)。プランティンを使用した場合、正式にはアグロフォレストリーではないので、アグロフォレストリーもどきとしておこうと思う。このもどきの利点は、プランティンは一年生草本作物であることから、製材用や多目的利用早生樹と違って、短期間でコーヒー庇陰を確立させることが可能なのである。

写真13 プランティンを庇陰作物としたコーヒー栽培(アグロフォレストリーもどき), 2009
もともと、製材用樹種植栽地を活用して、コーヒー栽培を行うことができれば好都合であるが、新規コーヒー栽培地に庇陰樹を導入することは時間的にもデメリットである。そこで、庇陰システムを導入したい場合、プランティンであれば、短期間で、アグロフォレストリーもどきを確立させることができるという点ではメリットだと考えたものであった。
実は、前のエッセイで『エクアドルの地域別農業の特色:コスタ・シエラ・オリエンテ地域別事例』を報告したが、この中にもカカオ栽培において、プランティンを庇陰作物として用いている事例を紹介している(同エッセイの写真17右参照[7])。
5).観光農業の一つとしてのアグロフォレストリー
もちろん、同コーヒー農園の遠方には、製材用樹種を用いた大規模コーヒー農園の全景を示す(写真14)。手前が前記プランティンを庇陰作物とした用いている事例であり、この巨大なアグロフォレストリーには感動した。
コスタリカは、野生動物や植物等の天然資源の保全にも力を入れており、『エコツーリズム[8]』が一つの外貨獲得手段である。この他、このアグロフォレストリーも、『観光農業』の一つとして捉えることができないであろうか? 筆者はそのように考えている。

写真14 製材用樹種およびプランティンを庇陰とした大規模コーヒー栽培, 2009
1).はじめに
CATIE訪問の目的の一つが、アグロフォレストリーに利用される有用樹種の保全の現場視察と情報収集であり、低環境負荷農牧林生産の確立に当たっても重要である。
実際、筆者は先のパナマのカラバシトならびにエル・ココ(El Coco)[9]両実験圃場において(図3)、アグロフォレストリーとして、シルボパストラルならびにアレークロッピング・システム[10]に関する基礎研究経験を有している。ここで補足しておきたい事項であるが、これらアグロフォレストリーに関する試験は、CATIEでの実験成果をダイレクトに移転したものではない。両圃場の土壌は、Soil Taxonomyにより、前者はアルティソル、後者はインセプティソルに類別されるものである。なお、前記CATIEのインセプティソルとは特性が大きく異なり、パナマのエル・ココ地区が低肥沃で劣悪度が高い。それに、パナマの両圃場は海抜100m程度であり、熱帯環境下にある湿潤サバナ(雨季は5月-12月)であるため、各々の地域の特性を考慮したシステムの確立を目指す必要がある。

図3 パナマのカラバシトならびにエル・ココ両実験圃場

図4 年度別の牧草地および放棄地帯の推移(出所 パナマセンサス,1992)
注釈:1971年-1980年までは、IDIAPのスタッフEsteban Arosemena氏より情報入手した。
2).慣行的牧畜生産による新規および放棄牧草地の増大
図4に1951年-1991年における牧草地と放棄地帯の推移を示す。牧草地の衰退が家畜頭数/haに影響を及ぼし、その頭数は減少してしまう。それゆえ、新規牧草地の開墾が増大するということである。それと同時に、肥育牛は、既に家畜頭数/haが減少した衰退牧草地から新規開墾地へ移動するため、ここが放棄牧草地となって増大していくということである。実際、筆者の周りにおいて、「放棄牧草地の増大」については知らない日本人が多かった。写真15にコクレ県とコロン(Colón)県の県境にあるコクレシート(Coclesito)地区を訪問した(パナマシニア海外協力隊時代)。ここでは、既存の森林を伐採して粗放な牧畜を実践している光景を直に目にすることができた。一つの無計画な森林伐採による慣行的牧畜の実践の証拠である。

写真15 コクレシート地区での森林伐採(左)および肥育牛の導入(右)の実態, 2007
3).マメ科樹種アカシア (Acacia mangium)の活用
採用マメ科樹種は、酸性土壌適応可能なアカシアであり、肥料林木として活用した事例である(写真16)。ちなみに、この樹種はCATIEからの遺伝資源であった。この樹種を用いたアグロフォレストリー・システムの奨励理由であるが、写真15の他、前記パナマ運河近隣やアマゾン地帯等も含めて、農耕地拡大として、既に天然林を伐採してしまった地帯(放棄牧草地も含む)での植林は、スコールによる土壌表土侵食も含めて、その成功率は低下してしまう[11]。また、植林は時間がかかる工程かつ赤字経営に陥ってしまうため、その環境に適応可能な早生樹種を採用し(樹種の一定の生育にはそれなりの時間を要することはデメリット)、その後(樹種の樹高が2m以上に到達した時点)[12]、疲弊農耕地の早期有効利用策として、一年生作物、イネ科やマメ科の改良牧草類、肥育牛等も導入し、施肥を含めた合理的な肥培管理を実施していくことである。
他方、牧畜生産においては、動物性タンパク源摂取という意味で重要であり、粗放放牧の拡大は、やがて牧草地が疲弊し、それに伴う天然林伐採が進行する等の環境破壊を引き起こしてしまう。それゆえ、イネ科やマメ科の改良牧草類についても、遺伝資源の保全や品種育成も重要であり、そこに土壌条件に応じた適切な施肥も重要になってくる。
なお、パナマのベラグアス県カラバシト実験圃場では、シルボパストラル・システムに採用したイネ科改良牧草ヒューミディコラHumidicola (Brachiaria humidicola)は、国際熱帯農業センター(Centro Internacional de Agricultura Tropical: CIAT[13])由来のものである(同写真左)。
他方、同写真右は、エル・ココ実験圃場での野外研究の一つであり、劣悪な土壌環境に適応可能なイネ品種の一つであるIDIAP 145-05を用いたアレークロッピング・システムである。そして、この試験では、アカシア内外[14]において、化学窒素4水準(0, 30, 60および100kgN/ha)にて、同イネ品種の栽培比較試験を実施した。

写真16 パナマにおけるシルボパストラル(左),2000およびアレークロッピング(右),2008
4).環境教育材料としての活用
本稿では、紙面の都合上、これらの詳細な研究結果は報じないが、シルボパストラルにおいては、前記事項と重複する部分もあるが、既存の牧草地の地力の維持、アカシア庇陰が肥育牛にとっての皮膚ガン軽減対策となる。また、アカシアは囲い林としてのボーダーの役割も担い、これ以上の新規開拓牧草地の拡大を食い止めることに期待が持てる。
他方、アレークロッピングにおいては、肥料林木として、アカシアが有する空中窒素固定作用により、陸稲にとっては化学窒素の減肥に貢献できた(【参考文献】の13参照)。さらに、アカシア根による地中溶脱養分をポンピングし、落葉を通じての養分のリサイクルに貢献できるとして、その成果も評価した。ただし、このシステムは大規模陸稲作農家には不適であり、小農向けのための基礎実験であった。
前記した、コスタリカでの事例を観光農業として捉えるならば、パナマでの事例は、観光農業の他、環境教育材料としても活用できるものと考えており、ラテンアメリカ関心者はもちろん、それ以外の小学・中学・高校・専門学校・大学等の学校教育として導入してもらいたい事項でもある。
前エッセイで報じた在来種も含めた植物遺伝資源の効率的な活用による農業生産ならびに新品種や系統の育成と同時に、劣化土壌の地力回復戦略の一環として、有用樹種や改良牧草類および肥育牛等の家畜を含めた一つの農牧林融合システムの開発こそ、低環境負荷生産に大きく貢献し、ラテンアメリカ諸国における一つのニーズであると感じている。
そして、肝心な小農であるが、企業型農業の中に、土壌の地力の維持や土壌資源保全を目的に、このアグロフォレストリーの導入(特に、広大な草原地帯で、シルボパストラルを実施する場合)によって、サトウキビと同様、マメ科樹種等の植樹や栽培・剪定管理を実施して現金収入を得る。そして、ケニアのセスバニアでの事例のように、剪定によって得られた胸高直径2cm以上の材は、燃料用材として確保・売買することもできよう。それに、観光農業や環境教育材料となれば、大農や小農にとっても、別の意味での現金収入の確保が期待できよう。
さらに、小農の教育水準や関心度にもよるが、自給自足圃場も含めて、前記セスバニアの他、ギンネムやカリアンドラ等のマメ科樹種を植栽して、休閑地を設けたり、飼葉は、肥育牛(肉牛)や乳牛の他、食用小動物(例:ウサギやテンジクネズミ等)のタンパク源として用いることも可能である。それと、栽培作物とのアレークロッピング・システムの導入も重要である。

写真17 ケニアにおけるイネ科牧草とマメ科樹種とのアレークロッピングの事例, 1999
写真17は、栽培作物ではないが、イネ科牧草ファウンテン・グラス (Pennisetum setaceum)[15]とマメ科灌木(ギンネムまたはカリアンドラ)のアレークロッピングの事例があり、図2で示したケニアのイースタン州のエンブ地区でのICRAFの試験圃場である。同写真左はイネ科牧草とマメ科樹種の播種密度がそれぞれ10000 plantas/ha(比率が1:1)であり、同写真右はそれぞれ16000および4000 plantas/ha(比率が4:1)である。イネ科牧草の代わりに、トウモロコシ等の作物が栽培されているケースもアレークロッピングであり、マメ科樹種を肥料林木として活用することができる。
いずれにしても、企業型農業の中に、小農は可能な限り、現金収入獲得を目的に共生し、自給用作物は、小農の習慣を考慮して、植物遺伝資源の保全という視点も含めて、在来種を効率的に活用する。その一方で、小農の教育水準やモチベーションにもよるが、得られた現金収入を活用して、小規模面積で適切な化学肥料の施肥による改良品種の導入・生産を奨励させ、得られた農産物をローカルマーケット等で出荷することもできよう。この考え方は、当時、筆者がJOCV時代、NCSUのTropSoil Projectから学んだ事項であり、ラテンアメリカにおける国際農業協力の基本鉄則ともいえるのである。
コスタリカは、中米一の農牧技術が発達した国といわれ、CATIEにおいてもその研究教育には力を入れている。実際、パナマのIDIAPのエル・ココ実験圃場の同僚Arosemena氏(牧畜が専門で、本稿図4の提供者)の他、2018年-20年に赴任したエクアドルのグアヤス(Guayas)県グアヤキル(Guayaquil)市にあるリトラル工科大学(Escuela Superior Politécnica del Litoral: ESPOL)生命科学部の林学の教官も、CATIEにおいて、共にマスター(修士号)の学位を取得していた。
筆者にとって、コスタリカは赴任国ではないが、このように、CATIE訪問ならびに2009年時のSLCS参加を通じて、植物遺伝資源の保全、アグロフォレストリーの他、ニカラグアとの国境県であるグアナカステ(Guanacaste)県の水田稲作とその土壌観察(本稿対象外)等、多くのことを学習できる機会に恵まれた。それと同時に、ケニアに赴任できたことも幸運であった。
前エッセイの植物遺伝資源の保全も含めて、農学的事項の記述となったが、ラテンアメリカにおける観光農業・環境教育に役立つことのできる農業技術の紹介ということでご了承願いたい。また、この背景は、『中南米の古代遺跡とトウモロコシ』を題材にした同協会のエッセイ(2025年8月18日アップで【参考文献】の15を参照)で報告したが、メキシコやマヤ文明崩壊から現在に至るまで、ラテンアメリカ諸国での天然林伐採による慣行的な農牧業の拡大は現在完了形であり、ますます環境破壊に拍車がかかっている。このことは、農業の素人であっても、ラテンアメリカ関心者ならびに多くの学生たちにも学んでほしい事項なのである。
https://latin-america.jp/archives/67286
https://latin-america.jp/archives/67392
[1] 配属先は、パナマ農牧研究所(Instituto de Investigación Agropecuaria de Panamá: IDIAP)土壌研究室であり、エレーラ(Herrera)県ディビサ(Divisa)地区にある。他方、同研究所の管轄実験圃場は、ベラグアス県(Veraguas)県カラバシト(Calabacito)実験圃場であり、両地域で3年1ヶ月間(1992年-95年)活動していた。
[2] シルボパストラル・システム:アグロフォレストリーの一つで、牧畜と林業を融合したシステムであり、粗放放牧の拡大を防ぐことと、マメ科樹種を肥料林木として用いることで既存の牧草地の地力を維持させること等を目的にしている。また、樹種の下では、肥育牛に対して日陰環境も提供できる(詳細は割愛)。
[3] IDIAP土壌研究室長は、筆者赴任前から、米国ノースカロライナ州立大学(North Carolina State University:NCSU)のTropSoil Projectのメンバーの一人であり、上記Calabacito実験圃場も、同大学との共同研究圃場の一つであった。詳細は割愛するが、このプロジェクトの概要書より、『アグロフォレストリー』が組み込まれており、その概要を知ることができた。したがって、パナマ赴任前は、耳にもしなかった言葉である。
[4] 現:公益社団法人 国際農林業協働協会(Japan Association for International Cooperation of Agriculture and Forestry: JAICAF)となった。
[5] 国際農業研究協議グループ(Consultative Group on International Agriculture Research: CGIAR)下の傘下の機関の一つで、現在は、世界アグロフォレストリーセンター(World Agroforestry Centre: WAC)と改名した。
[6] 青果用バナナならびにプランティンは樹種ではなく、一年生の巨大な草本作物である。それゆえ、庇陰樹という表現は正しくないので、ここでは庇陰作物と記すこととした。
[7] 2025年10月上旬にアップされたラテンアメリカ協会のエッセイで、このエクアドルでのカカオ栽培の写真は2018年当時のものである。つまり、エクアドル訪問前に、ここコスタリカでのSLCS参加によって、偶然、初日にコーヒーでのプランティンを庇陰作物とした事例を既に観察していたので、エクアドル、グアヤス(Guayas)県ダウラール(Daular)地区で、プランティンをカカオの庇陰作物として利用していることが容易に頷けた。巻末の【参考文献】にURLを表示している。
[8] エコツーリズム:自然環境や歴史文化の体験学習と同時にこれらの保全も考慮した観光旅行。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%84%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A0
[9] エル・ココ実験圃場は、コクレ(Coclé)県であり、2007年-09年にJICAシニア海外協力隊として赴任した。つまり、カラバシト地区以外の別圃場での活動として、パナマ農牧研究所に再赴任した。
[10] アレークロッピング・システム:マメ科樹種を肥料林木として用いて、樹種間に一年生作物を栽培し、低化学窒素農法等を目指す。また、傾斜地圃場では、樹種(苗木)を等高線植樹することで、土壌侵食の軽減にも貢献する。
[11] パナマのカラバシト地区の劣悪酸性土壌(アルティソル)にて、IDIAP同僚と代表的な製材用樹種を用いた植林試験を試みたが、先のアカシアの他、チーク (Tectona grandis)のみ成功し、その他は枯死率を高め、失敗してしまった(【参考文献】の10-13参照)。
[12]シルボパストラル・システムにおいて肥育牛を導入する場合、苗木段階では新芽が食害される恐れがある。そのため、樹種の導入は小面積において段階的に行い、樹木が十分に定着した後にイネ科牧草を導入するのが望ましい。イネ科牧草については、種子による播種よりも栄養繁殖(茎節を15cm-20 cm程度に切断し、地面に寝かせて植える方法)の方が、一般的に活着率が高くて有利である。この方法をとる場合、導入樹種の樹高が2 m以上に生長した段階で肥育牛を放牧するのが妥当である(一般論である)。一方、樹種を導入していない区画では、タンパク銀行としてマメ科牧草の単播区、あるいはイネ科とマメ科の混播区を併設し、土地の有効利用も含めた効率的な牧畜管理を図る(詳細は本稿では割愛)。
[13] CIAT:CGIAR下の傘下の機関の一つで、コロンビアのバジェ・デル・カウカ県のパルミーラ(Palmira)地区に本部を有する。2001年2月、コロンビアJICA短期専門家時代に訪問経験ありで、さらに、ここには、メキシコに本部を有する国際トウモロコシおよびコムギ改良センター(Centro Internacional de Mejoramiento de maíz y Trigo: CIMMYT)の支所もあった。なお、ページ数の都合により、CIAT訪問時の写真は割愛する(次のコロンビアのエッセイに導入)。
[14] アカシア内は写真16右に示したアレークロッピング処理区で、アカシア外は対照区である。つまり、これらがメインプロットであり、サブ処理区が陸稲栽培試験での窒素施用4水準である。
[15] ファウンテン・グラス:熱帯アフリカから中東アジアの乾燥地帯原産の多年草であり、草丈は1mを超える。葉は細長くて先端は垂れ下がり、花穂は長さ30cmほどになる。