連載レポート133:桜井悌司「世界報道の自由度調査に見るラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート133:桜井悌司「世界報道の自由度調査に見るラテンアメリカ」


連載レポート133

世界報道の自由指数2024に見るラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

今年も5月3日の「世界報道の自由デー」に「世界報道の自由指数2024」(World Press Freedom Index 2024)が発表された。パリに本部を置く「国境なき記者団」が2002年より開始したもので、今年も世界180カ国を対象としている。

国境なき記者団によれば、「報道の自由とは、個人および集団としてのジャーナリストが、政治的、経済的、法的、社会的干渉を受けず、身体的・精神的安全に対する脅威がない状態で、公共の利益のためにニュースを選択、制作、普及する能力を指す」と定義している。

この定義に基づき、報道の自由に関するアンケートとマップは、5つの明確なカテゴリーまたは指標(政治的背景、法的枠組み、経済的背景、社会文化的背景、安全)に分類されている。

1.「世界報道の自由指数2024」の概要

この指数にしたがって、世界の報道の自由をスコアによって5つのカテゴリーに分けている。すなわちGood(良好)、Satisfactory(満足) 、Problematic(問題あり)、Difficult(困難) 、Very serious(非常に深刻)である。2024年の指数によると、対象180ヶ国のうち、良好が8ヶ国(8ヶ国)、満足が44ヶ国(37ヶ国)、問題ありが55ヶ国(50ヶ国)、困難が42ヶ国(49ヶ国)、非常に深刻が31ヶ国(36ヶ国)となっている。( )内は2023年の数字であるが、明らかに世界的に悪化していることが理解できる。

いつもながら上位に位置する国は欧州諸国で、下記表1の通り、ベスト10は全て欧州諸国である。アジア諸国では、1位は台湾で27位、2位は韓国で62位、日本は3位で70位となっている。日本は2023年の調査では、68位であったが、2ポイント下落した。ちなみに、ロシアは162位、中国は172位、北朝鮮は177位である。ワースト3はエリトリア、シリア、アフガニスタンとなっている。

日本は、G7中最下位で、報道の自由が一般的に尊重されているとは言え、政治的圧力や男女不平等などで、記者が監視者としての役割を十分に果たしていないこと、記者クラブ制度がメディアの自己検閲や外国人ジャーナリストらへの差別につながっているとしている。マスコミ関係者による認識と事態の改善努力が求められる。

表1 世界報道の自由指数2024による世界とラテンアメリカ・カリブ諸国のランキング

世界順位 国名 得点 LA順位 国名
1位 Norway 91.89 24/180 Jamaica
2位 Denmark 89.6 25/180 Trinidad T
3位 Sweden 88.32 26/180 Costa Rica
4位 Netherlands 87.73 28/180 Suriname
5位 Finland 86.55 35/180 Dominica R.
6位 Estonia 86.44 51/180 Uruguay
7位 Portugal 85.9 52/180 Chile
8位 Ireland 85,59 54/180 Belize
9位 Switzerland 84.01 66/180 Argentina
10位 Germany 83.84 77/180 Guyana
11位 Luxemburg 83.8 82/180 Brazil
12位 Latvia 81.73 93/180 Haiti
13位 Lithuania 81.73 110/180 Ecuador
14位 Canada 81.7 115/180 Paraguay
15位 Liechtenstein 81.52 119/180 Colombia
21位 France 78.65 121/180 Mexico
23位 UK 77.51 124/180 Bolivia
27位 Taiwan 76.13 125/180 Peru
55位 USA 66.59 133/180 El Salvador
62位 Korea 64.87 138/180 Guatemala
70位 Japan 62.12 146/180 Honduras
162位 Russia 29.86 156/180 Venezuela
172位 China 23.36 163/180 Nicaragua
177位 North Korea 20.66 168/180 Cuba

2.「世界報道の自由指数2024」にみるラテンアメリカの動向

2024年のラテンアメリカ諸国の上位ランキングについては、表1の通りである。これを5つのカテゴリーに分類すると下記の表2となる。「良好」のカテゴリーに入る国は0で、「満足すべき」は、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、コスタリカ、スリナム、ドミニカ共和国の5ヶ国(2023年の調査では8ヶ国)。「問題あり」のカテゴリーには、ウルグアイ、チリ、ベリーズ、アルゼンチン、ガイアナ、ブラジル、パナマ、ハイチの8ヶ国(7ヶ国)、「困難」には、エクアドル、パラグアイ、コロンビア、メキシコ、ボリビア、ペルー、エルサルバドル、グアテマラの8ヶ国(6ヶ国)、最悪の「非常に深刻」には、ホンジュラス、ベネズエラ、ニカラグア、キューバの4ヶ国(4ヶ国)が入っている。

表2 ラテンアメリカ諸国の評価のステージ別分類

評価 得点 国名 国数
良好good 85点~100点 None 0(0)
満足すべきsatisfactory 70点~85点 Jamaica, Torinidad T, Costa Rica, Suriname, Dominican R. 5(8)
問題ありproblematic 55点~70点 Uruguay, Chile, Belize, Argentina, Guyana, Brazil, Panama, Haiti 8(7)
困難

difficult

40点~55点 Ecuador, Paraguay, Colombia, Mexico, Bolivia, Peru, El Salvador, Guatemala 8(6)
大変深刻

very serious

0点~40点 Honduras, Venezuela, Nicaragua, Cuba 4(4)

注:( )は2023年の数字。 国名の下線部は1段階下落した国

次に表3はラテンアメリカ諸国の2024年調査結果による総合点と5つの部門別のスコアである。これによって、どの部門がスコアの上昇、スコアの下落に影響しているかが理解できる。昨年に続き、各国の総合スコアと5つの部門別スコアに基づき、対象のラテンアメリカ25カ国で、どの部門のスコアが、総合スコアを上回っているか下回っているかを調べたものが表4である。総合点の上昇に貢献している部門は、社会文化面と法制度面で、反対に上昇の足を引っ張っている部門は、経済面と政治面であることが理解できる。治安面については、昨年度は均衡していたが、今年の調査ではかなり好転していることがわかる。

表3 2024年調査における総合及び部門別得点

順位 国名 総合 政治 経済 法制度 社会・文化 治安
24/180 Jamaica 77.3 66.39 70.31 72.6 84.97 92.25
25/180 Torinidad T 76.69 66.97 66.76 71.26 86.41 92.06
26/180 Costa Rica 76.13 57.41 63.89 83.97 82.8 92.69
28/180 Suriname 76.11 66.67 70.66 71.79 79.56 91.87
35/180 Dominican R 73.89 72.61 53.54 86.92 82.14 74.24
51/180 Uruguay 67.7 53.62 48.36 76.65 70.58 89.29
52/180 Chile 67.32 68.84 46.98 68.75 68.45 83.57
54/180 Belize 66.85 51.57 49.48 62.18 77.98 93.06
66/180 Argentina 63.13 54.83 38.45 76.12 63.89 82.34
77/180 Guyana 60.1 44.93 46.61 60.46 65.18 83.33
82/180 Brazil 58.59 57.89 44.68 66.88 57.14 66.37
83/180 Panama 58.55 41.18 49.83 55.13 64.68 81.94
93/180 Haiti 55.92 53.38 44.44 67.47 69.05 45.26
110/180 Ecuador 51.3 39.57 43.33 60.77 47.38 65.48
115/180 Paraguay 50.48 40.9 34.95 64.42 56.88 55.27
119/180 Colombia 49.63 48.05 37.58 72.71 48.08 41.75
121/180 Mexico 49.01 49.69 42.11 67.99 57.99 27.28
124/180 Bolivia 48.88 31.24 38.08 57.59 59.79 57.7
125/180 Peru 47.76 39.44 39.27 58.1 53.23 48.73
133/180 El Salvador 44.01 29.21 42.23 50.3 49.27 49.04
138/180 Guatemala 42.28 33.57 38.13 57.24 46.67 35.78
146/180 Honduras 38.18 35.36 34.89 49.17 35.95 35.31
156/180 Venezuela 33.06 17.68 31.63 37.33 38.74 39.91
163/180 Nicaragua 29.2 17.23 39.03 30.34 36.64 27.77
168/180 Cuba 25.63 14.86 24.46 15.63 30.16 43.05
               
80/180 Japan 62.12 53.07 55.83 64.35 54.38 82.85

注:①Global score  ②Political indicator  ③Economic indicator  ④Legislative indicator ⑤Sociocultural indicator  ⑥Security indicator

表4 総合点と部門別点の関係

  政治 経済 法制度 社会文化 治安
総合点より上回っている国数 2(10) 1(4) 19(17) 22(22) 18(13)
総合点より下回っている国数 23(15) 24(21) 6(8) 3(3) 7(12)

 

続いて、表5は過去6年(2019年~2024年)のラテアンアメリカ諸国24カ国のランキングの推移を表す。この表5に基づき、2023年と2023年の過去1年間のランクの推移を見たのが、表6の「2023年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト」である。これによると大きくランクを上昇させた国は、チリ、ホンジュラス、スリナム、コロンビア、ブラジル等14ヶ国。反対にランクを落とした国は、10ヶ国で、とりわけ、エクアドル、アルゼンチン、エルサルバドル、ガイアナ、ペルーの下落が顕著である。

表7は、中期の観点からのランクの上昇・下落をみるために、コロナ前の2019年と2024年のランクを比較したものである。対象となる22ヶ国で調べたところ、ランクの上昇を見た国は、6ヶ国で、下落した国は、14ヶ国となる。20位以上上昇した国は、ブラジル、メキシコ、ドミニカ共和国の3ヶ国である。反対に30位以上下落した国は、エルサルバドル、ニカラグア、ペルー、ウルグアイ、グアテマラ、ハイチの6ヶ国に及んでいる。

表5 過去6年の世界ランクの推移(2019年~2024年)

LA

順位

国名 世界

2024

世界

2023

世界

2022

世界

2021

世界

2020

世界

2019

1位 Jamaica 24 32 12 7 6 8
2位 Trinidad T 25 30 25 31 36 39
3位 Costa Rica 26 23 8 5 7 10
4位 Suriname 28 48 52 19 20 20
5位 Dominican Reo. 35 42 30 50 54 55
6位 Uruguay 51 52 44 18 19 19
7位 Chile 52 83 82 54 51 46
8位 Belize 54 51 77 53 53 53
9位 Argentina 66 40 29 69 64 57
10位 Guyana 77 60 34 30
11位 Brazil 82 92 110 111 107 105
12位 Haiti 93 97 70 87 83 62
13位 Ecuador 110 80 69 91 98 97
14位 Paraguay 115 103 96 100 100 99
15位 Colombia 119 139 145 134 130 129
16位 Mexico 121 128 127 143 143 144
17位 Bolivia 124 117 126 110 114 113
18位 Peru 125 110 77 91 97 85
19位 El Salvador 133 115 112 82 74 81
20位 Guatemala 138 127 124 116 116 116
21位 Honduras 146 169 165 151 148
22位 Venezuela 156 159 159 148 147 148
23位 Nicaragua 163 158 160 121 117 114
24位 Cuba 168 172 173 171 171 169
               
  Japan 70 68 71 67 66  

 

表6 2023年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト

ランクが上昇した国  14ヶ国 ランクが下落した国  10ヶ国
Chile(+31), Honduras(+23), Suriname(+20), Colombia(+20), Brazil(+10), Jamaica(+8), Dominican Rep.(+7), Mexico(+7), Bolivia(+7), Trinidad T(+5), Haiti(+4), Cuba(+4), Venezuela(+3),Uruguay(+1) Ecuador(-30), Argentina(-26), El Salvador(-18), Guyana(-17), Peru(-15), Paraguay(12),Guatemala(11),Nicaragua(-5), Costa Rica(-3), Belize(-3)

 

表7 コロナ前の2019年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト

ランクが上昇した国  6ヶ国 ランクが下落した国  16ヶ国
Brazil(+23),Mexico(+23), Dominican R.(+20), Trinidad T(+14), Colombia(+10), Cuba(+1) El Salvador(-52), Nicaragua(-49), Peru(-40), Uruguay(-32), Guatemala(-32), Haiti(-31), Jamaica(-16), Costa Rica(-16), Paraguay(-16), Ecuador(-13), Bolivia(-11), Argentina(-9),  Suriname(-8), Venezuela(-8), Chile(-6), Belize(-1)

注:Guyana とHondurasは、2019年の数字は無いので割愛した。

 

3)「世界報道の自由指数2024」にみる「国境なき記者団」によるラテンアメリカに関するコメント

本レポートを作成する「国境なき記者団」は全体の総評と地域別の評価をコメントしている。ラテンアメリカについて以下引用する。

*2024年世界報道の自由度指数では、アメリカ大陸地域の半数以上の国が、特に政治的指標の下落により、状況が悪化している。

*演説でジャーナリストやメディアに汚名を着せる政治家がますます増えている。その上、政治家たちは偽情報キャンペーン、濫訴、報道不信を公然と助長し分極化を促す国家的プロパガンダを採用している。このような暴力は、ジャーナリストへの物理的な攻撃とあいまって、南米と中米における検閲の風潮に拍車をかけている。

*アルゼンチン(66位)でも、ハビエル・ミレイ大統領の誕生により、ジャーナリズムに対する攻撃的な姿勢が多元主義を阻害している。ペルー(125位)では、ジャーナリズムの条件が、政治体制が不透明さを増すにつれ、悪化している。同国は過去2年間で48位も順位を下げた。中米では、エルサルバドル(133位)では、調査報道に対するナイブ・ブケレ大統領の公然と敵対的な姿勢によって、2019年以降、順位が落下している。

*検閲、政治的圧力、強制亡命  最下位のキューバ(168位)、ニカラグア(163位)、ベネズエラ(156位)の3カ国では、ジャーナリズムは恣意的な決定に基づく検閲の対象にさらされており、拘束、放送の中断、行政による締め付けといった形をとっている。グアテマラ(138位)では、ジャーナリストの犯罪化とホセ・ルベン・サモラの投獄が、ジャーナリズムが過去数年間に直面した重大な脅威の目撃者となっている。

*エクアドル(110位)では、政治危機と組織犯罪の台頭が民主的環境を崩壊させた。ハイチ(93位)は、昨年に比べジャーナリストの殺害がなくなった(6人殺害)にもかかわらず、治安の面では180カ国中131位にとどまっている。メキシコ(121位)は、過去10年間に世界で最も多くのジャーナリストが殺害された国(72人)であり、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は、メディア関係者のより安全な環境を促進することよりも、ジャーナリストと対決することに関心があるように思える演説以外、その任期の最後の年に提供できるものはほとんどない。

*前向きな動きと新たな挑戦  良いニュースはチリ(52位)で、31位上昇した。偏向が緩和され、政府が報道の自由を優先し、メディア労働者にとってより安全な環境を作ろうとする意志を示したことが、この復活に貢献した。ブラジル(82位)では、ジャイル・ボルソナロ前大統領の任期中、緊張が高まっていた時期があったが、ルラ大統領政権は報道機関との関係正常化で全般的に前進した。かつてこの地域で最高ランクだったコスタリカ(26位)は、主に政府とメディア間の緊張が原因で、順位を下げ続けている。

以 上

なお過去に執筆した「世界報道の自由指数」関連のレポートは下記の通り。

連載レポート47「統計・ランキングに見るラテンアメリカ その7 報道の自由度ランキング」2020年7月 
連載レポート71「統計に見るラテンアメリカ その後のフォロー」 2021年11月
連載レポート103「インターネット自由度ランキング2022とラテンアメリカ」 2022年11月
連載レポート113 世界報道の自由度指数2023とラテンアメリカ