執筆者：桜井悌司（ラテンアメリカ協会顧問）
ダボス会議で有名な世界経済フォーラム（WEF）は、毎年、グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス調査を公表する。今年も6月12日に2024年版が発表され、マスコミでも、あまり喜ばしい結果ではないが、日本が昨年の125位からランクを7ポイントを上昇させ、146ヶ国中118位となったと大々的に報道された。
この調査は、2006年に開始され、今回が23回目である。調査対象国数は、昨年と同様で146カ国である。調査項目は、「ジェンダー間の経済的参加度及び機会」、「教育達成度」、「健康と生存」、「政治的エンパワーメント」の4項目となっている。完全に実現できている場合１、出来ていない場合を0とカウントし、4項目にわたり採点、総合点をランキング形式で発表するというものである。
2024年の世界ランキングを表１でみると、1位アイスランド（前回1位、）2位フィンランド（3位）、3位ノルウエー（2位）、4位ニュージーランド（4位）、5位スウエーデン（5位）、6位ニカラグア（7位）、7位ドイツ（6位）、8位ナミビア（8位）、9位アイルランド（11位）10位スペイン（18位）となっている。ランクを上げた国は、スペイン、アイルランド、フィンランド、ニカラグアである。スペインの躍進ぶりが注目される。
アジアでは、フィリピンが最上位の25位、以下シンガポールの48位と続く。韓国は、94位、中国は、105位、日本は、118位と振るわない。
ラテンアメリカ諸国は、この調査では好成績を上げている。全体の25％に当たる36位以内には、ニカラグア、エクアドル、コスタリカ、チリ、バルバドス、アルゼンチン、メキシコ、ガイアナの8ヶ国が入っており、全体の50％に当たる73位までには、ジャマイカ、ペルー、ボリビア、コロンビア、パナマ、スリナム、ホンジュラス、ブラジル、ウルグアイの9カ国が入る。
表１ 2024年グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス・ランキング
| 世界
Rank |
国名 | 得点 | LAC
Rank |
国名 | 得点 |
| 1位 | アイスランド | 0.935 | 1位(6) | ニカラグア | 0.811 |
| 2位 | フィンランド | 0.875 | 2位(16) | エクアドル | 0.788 |
| 3位 | ノルウエー | 0.875 | 3位(19) | コスタリカ | 0.785 |
| 4位 | ニュージーランド | 0.835 | 4位(21) | チリ | 0.781 |
| 5位 | スウエーデン | 0.816 | 5位(31) | バルバドス | 0.773 |
| 6位 | ニカラグア | 0.811 | 6位(32) | アルゼンチン | 0.772 |
| 7位 | ドイツ | 0.810 | 7位(33) | メキシコ | 0.768 |
| 8位 | ナミビア | 0.805 | 8位(35) | ガイアナ | 0.765 |
| 9位 | アイルランド | 0.802 | 9位(37) | ジャマイカ | 0.758 |
| 10位 | スペイン | 0.797 | 10位(40) | ペルー | 0.755 |
| 14位 | 英国 | 0.789 | 11位(44) | ボリビア | 0.746 |
| 15位 | デンマーク | 0.789 | 12位(45) | コロンビア | 0.745 |
| 17位 | ポルトガル | 0.787 | 13位(50) | パナマ | 0.742 |
| 19位 | イタリア | 0.785 | 14位(53) | スリナム | 0.739 |
| 22位 | フランス | 0.781 | 15位(59) | ホンジュラス | 0.726 |
| 25位 | フィリピン | 0.779 | 16位(70) | ブラジル | 0.716 |
| 43位 | 米国 | 0.747 | 17位(71) | ウルグアイ | 0.715 |
| 48位 | シンガポール | 0.744 | 18位(81) | パラグアイ | 0.707 |
| 94位 | 韓国 | 0.696 | 19位(82) | ドミニカ共和国 | 0.706 |
| 106位 | 中国 | 0.684 | 20位(93) | グアテマラ | 0.697 |
| 118位 | 日本 | 0.663 | 21位(95) | ベリーズ | 0.696 |
| 146位 | スーダン | 0.568 | 22位(96) | エルサルバドル | 0.695 |
| 対象国数 | 146ヶ国 | 対象国数 | 22ヶ国 |
２）調査対象の４項目別の特徴
Global Gender Gap Index 2024のレポートをみると国別の詳細な分析が見られる。ご関心のある人は参照のこと。昨年のレポートでは、4つの項目に従い、ラテンアメリカ諸国の特徴を紹介したが、今年の特徴は下記の通りである。
「経済的参加度及び機会」
この分野が多くのラテンアメリカ諸国にとって弱みである。唯一、バルバドスの3位、ジャマイカの8位が抜きんでている。対象国22ヶ国のうち、50位以内の国は、バルバドス、ジャマイカ、スリナム、ベリーズ、ガイアナの5ヶ国となっている。90位以下の国は、グアテマラ、エル・サルバドル、メキシコ、ニカラグア、アルゼンチン、ボリビア、ホンジュラス、チリの8ヶ国である。
「教育達成度」
この分野は2極分化が見られる。世界第1位にランクされている国は、コスタリカ、アルゼンチン、コロンビア、ホンジュラス、ドミニカ共和国、ベリーズの6ヶ国で、反対に80位から100位にランクされる国は、グアテマラ、ボリビア、チリ、ペルー、ジャマイカ、スリナムの6ヶ国である。
「健康と生存」
この分野も2極文化が見られる。ガイアナ、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、ドミニカ共和国、ベリーズ、エル・サルバドルの7ヶ国が世界1位を占めている反面、100位以下の国はボリビア、ペルー、ホンジュラスの3ヶ国である。
「政治的エンパワーメント」
この項目は、ラテンアメリカの強みである。対象国22ヶ国の内、ベスト20位内にランクされる国は、ニカラグア、チリ、メキシコ、コスタリカ、エクアドル、アルゼンチンの6ヶ国がランクインされている。さらに50位以内の国には、ボリビア、ペルー、ガイアナ、コロンビアの4ヶ国が入る。反対に、女性の政治参加が進んでいない100位以下の国は、ベリーズとドミニカ共和国となっている。
表２ The Global Gender Gap Index 2024 Ranking テーマ別順位
| 国 名 | 総合 | 経済的参加度と機会 | 教育達成度 | 健康と生存 | 政治的エンパワメント |
| ニカラグア | ６位 | １００位 | ３２位 | ３４位 | ５位 |
| エクアドル | １６位 | ６６ | ５２ | ８５ | １７ |
| コスタリカ | １９位 | ８１ | １ | ５９ | １５ |
| チリ | ２１位 | ９２ | ８８ | ６８ | １２ |
| バルバドス | ３１位 | ３ | ５９ | ９１ | ５４ |
| アルゼンチン | ３２位 | ９７ | １ | ４１ | ２０ |
| メキシコ | ３３位 | １０９ | ６２ | ４９ | １４ |
| ガイアナ | ３５位 | ４７ | ６３ | １ | ３６ |
| ジャマイカ | ３７位 | ８ | ８１ | ９３ | ６０ |
| ペルー | ４０位 | ７７ | ８６ | １１７ | ３３ |
| ボリビア | ４４位 | ９５ | ９６ | １２７ | ３２ |
| コロンビア | ４５位 | ７１ | １ | ５１ | ４７ |
| パナマ | ５０位 | ５１ | ４２ | ５７ | ５６ |
| スリナム | ５３位 | ３５ | ８０ | ３１ | ６６ |
| ホンジュラス | ５９位 | ９４ | １ | １１１ | ５２ |
| ブラジル | ７０位 | ８８ | ５４ | １ | ７４ |
| ウルグアイ | ７１位 | ６４ | ３１ | １ | ９５ |
| パラグアイ | ８１位 | ７９ | ４３ | ５３ | ９４ |
| ドミニカ共 | ８２位 | ７０ | １ | １ | １０４ |
| グアテマラ | ９３位 | １２１ | ９８ | １ | ５９ |
| ベリーズ | ９５位 | ４６ | １ | １ | １２９ |
| エルサルバドル | ９６位 | １１６ | ６９ | １ | ７７ |
| スペイン | １０位 | ４５ | ４１ | １００ | １３ |
| ポルトガル | １７位 | ２７ | ６８ | ６２ | ２６ |
| 日本 | １１８位 | １２０ | ７３ | ５８ | １１３ |
３）過去5回の調査にみるラテンアメリカ諸国のランキングの推移
次に過去5回の調査でラテンアメリカ諸国がどのようなランクを占めていたかを示したのが表3である。
まず,2024年と2023年の過去1年間で、ランクにどのような変化があったのかを見てみよう。ランクを上昇させたベスト5は、エクアドル（50→16、＋34）、グアテマラ（117→93、＋24）、ボリビア（56→44、＋12）、パラグアイ（91→81、＋10）、パナマ（58→50、＋8）である。反対にランクを加工させたワースト3は、エル・サルバドル（68→96,-28）、ジャマイカ（24→37,-13）、ブラジル（57→70,-13）、ペルー（34→40,-6）、ホンジュラス（53→59,-6）、ベリーズ（89→95,-6）となっている。
次に過去5回の調査（2019～2024）のランキング上下を見てみよう。上昇させた国ベスト5は、チリ（57→21,＋36）、エクアドル（48→16,＋32）、ペルー（66→40,＋26）、ブラジル（92→70,＋22）、グアテマラ（113→93,＋20）である。下降したワ―スト5は、ウルグアイ（37→71,-34）、コロンビア（22→45,-22）、エル・サルバドル（80→96,-16）、メキシコ（25→33,-8)、コスタリカ（13→19,-6）、バルバドス（25→31,-6）となっている。
表３ 2019年から2024年までの５回の調査からみた国別の推移
| 国 名 | 2024
順位 |
2023
順位 |
2022
順位 |
2020
順位 |
2019
順位 |
| 回数 | 第23回 | 第22回 | 第21回 | 第20回 | 第19回 |
| 発表日 | 24/6/12 | 23/6/21 | 22/7/13 | 20/12 | 19/12/16 |
| Nicaragua | 6位 | 7位 | 7位 | 12位 | 5位 |
| Ecuador | 16位 | 50位 | 41位 | 42位 | 48位 |
| Costa Rica | 19位 | 14位 | 12位 | 15位 | 13位 |
| Chile | 21位 | 27位 | 47位 | 70位 | 57位 |
| Barbados | 31位 | 31位 | 31位 | 34位 | 25位 |
| Argentina | 32位 | 36位 | 33位 | 35位 | 30位 |
| Mexico | 33位 | 33位 | 31位 | 34位 | 25位 |
| Guyana | 35位 | NA | 35 | NA | NA |
| Jamaica | 37位 | 24位 | 38位 | 40位 | 41位 |
| Peru | 40位 | 34位 | 37位 | 62位 | 66位 |
| Bolivia | 44位 | 56位 | 51位 | 61位 | 42位 |
| Colombia | 45位 | 42位 | 75位 | 59位 | 22位 |
| Panama | 50位 | 58位 | 40位 | 44位 | 46位 |
| Suriname | 53位 | 52位 | 44位 | NA | NA |
| Honduras | 59位 | 53位 | 82位 | 67位 | 58位 |
| Brazil | 70位 | 57位 | 94位 | 93位 | 92位 |
| Uruguay | 71位 | 67位 | 72位 | 85位 | 37位 |
| Paraguay | 81位 | 91位 | 80位 | 86位 | 100位 |
| Dominican Rep | 82位 | 81位 | 84位 | 89位 | 80位 |
| Guatemala | 93位 | 117位 | 113位 | 122位 | 113位 |
| Belize | 95位 | 89位 | 96位 | 90位 | 100位 |
| El Salvador | 96位 | 68位 | 59位 | 43位 | 80位 |
| Japan | 118位 | 125位 | 116位 | 120位 | 121位 |
| 調査対象国数 | 146ヶ国 | 146ヶ国 | 146ヶ国 | 156ヶ国 | 153ヶ国 |
注：コロナの影響で２０２１年は実施していない。
表４ 過去２回の調査でのランキングの上昇・下落（２０２３年～２４年）
過去５回の調査でのランキングの上昇・下落（２０１９年～２４年）
| 国名 | 順位の推移
23年→24年 |
順位の上昇下落 | 順位の推移
19年→24年 |
順位の上昇下落 |
| ニカラグア | 7位→6位 | ＋1 | 5位→6位 | -1 |
| エクアドル | 50位→16位 | ＋34 | 48位→16位 | ＋32 |
| コスタリカ | 14位→19位 | -5 | 13位→19位 | -6 |
| チリ | 27位→21位 | ＋6 | 57位→21位 | ＋36 |
| バルバドス | 31位→31位 | 0 | 25位→31位 | -6 |
| アルゼンチン | 36→32 | ＋4 | 57→21 | ＋36 |
| メキシコ | 33→33 | 0 | 25→33 | -8 |
| ガイアナ | NA→35 | Na | NA→35 | NA |
| ジャマイカ | 24→37 | -13 | 41→37 | ＋4 |
| ペルー | 34→40 | -6 | 66→40 | -26 |
| ボリビア | 56→44 | ＋12 | 42→44 | -2 |
| コロンビア | 42→45 | ＋3 | 22→45 | -23 |
| パナマ | 58→50 | ＋8 | 46→50 | -4 |
| スリナム | 52→53 | -1 | NA→52 | NA |
| ホンジュラス | 53→59 | -6 | 58→53 | ＋5 |
| ブラジル | 57→70 | -13 | 92→70 | ＋22 |
| ウルグアイ | 67→71 | -4 | 37→71 | ＋22 |
| パラグアイ | 91→81 | ＋10 | 100→81 | ＋19 |
| ドミニカ共和国 | 81→82 | -1 | 80→82 | -2 |
| グアテマラ | 117→93 | ＋24 | 113→93 | ＋20 |
| ベリーズ | 89→95 | -6 | 100→95 | ＋5 |
| エルサルバドル | 68→96 | -28 | 80→96 | -16 |
５）過去のGlobal Gender Gap Indexレポートの紹介
ラテンアメリカ協会のホームページ上において、このテーマについて、過去に掲載したレポートは下記の通りである。
連載レポート１１５ 「Global gender Gap Report 2023とラテンアメリカ」
https://latin-america.jp/archives/58559 2023年7月
連載レポート１０２ 「世界ランキング最新７調査に見るラテンアメリカの主要国の 立ち位置」https://latin-america.jp/archives/54984 2022年10月
連載レポート１００ 「2022年グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス調査とラテンアメリカ」 https://latin-america.jp/archives/54140 2022年8月
連載レポート ７１ 「統計に見るラテンアメリカ」その後のフォローーhttps://latin-america.jp/archives/50063 2021年10月
連載レポート 39 ｛ジェンダーギャップ指数ランキング Global Gender Gap Report 2020｝ https://latin-america.jp/archives/42432 2020年3月
以 上
