連載レポート136:桜井悌司「世界競争力ランキング2024から見たラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート136:桜井悌司「世界競争力ランキング2024から見たラテンアメリカ」


連載レポート 136

世界競争力ランキング2024から見たラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)

「はじめに」

本年6月17日に「世界競争力ランキング2024」(IMD World Competitiveness Ranking 2024)が発表された。この調査は、スイスのローザンヌに本拠を置くビジネススクールである「国際経営開発研究所」(IMD,International Institute for Management development)によって、1989年から開始され、今回が36回目の発表となる。同報告によれば、調査対象国は67ヶ国で、世界の57の提携機関と協力して収集した164の統計データや世界の経営者6,612人の回答、経営者意識調査(92の質問)の回答データを基本としたものである。調査は、「経済パーフォーマンス」(Economic Performance)、「政府の効率性」(Government Efficiency)、「ビジネスの効率性」(Business Efficiency)、「インフラ」(Infra)の4項目をカバーしている。ラテンアメリカ関連では、今回もチリ、ペルー、メキシコ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの7ヶ国を対象としている。

「2024年調査の概要」

2024年の調査結果は、表1の通りであるが、ベスト20の中で注目すべき点は、シンガポールが前年4位から一躍1位に躍進したこと、デンマークが1位から3位になったことがある。またランクを上昇させた国は、韓国8ポイント、中国7ポイント、オーストラリア6ポイント、ノルウエー、スペイン4ポイント、UAE3ポイント、アイルランド、香港、スウエーデンが2ポイントである。

アジア諸国は、シンガポール、香港、台湾、オーストラリア、中国、韓国がベスト20に入っている、日本は3ポイント落とし、38位となった。

ラテンアメリカ諸国の競争力は、低調でチリの44位を除き、すべて最下位周辺に甘んじている。

対象国の競争力に関する詳細な分析が掲載されているので、ご関心のある方は、下記を参照のこと。

https://www.imd.org/centers/wcc/world-competitiveness-center/rankings/world-competitiveness-ranking/rankings/wcr-rankings/#_tab_Rank

表1 世界競争力ランキング2024の概要

順位 国名 得点 LA順位 国名 得点
1(4) シンガポール 100.0 1(44) チリ 59.71
2(3) スイス 97.55 2(56) メキシコ 49.88
3(1) デンマーク 97.07 3(57) コロンビア 47.37
4(6) アイルランド 91.86 4(62) ブラジル 43.77
5(7) 香港 91.49 5(63) ペルー 43.44
6(8) スウエーデン 90.30 6(66) アルゼンチン 35.89
7(10) UAE 89.75 7(67) ベネズエラ 28.85
8(6) 台湾 88.50      
9(5) オランダ 86.94   アジア・オセアニア順位  
10(14) ノルウエー 86.22 1(1) シンガポール 100.0
11(12) カタール 85.33 2(5) 香港 91.49
12(9) 米国 83.48 3(8) 台湾 88.50
13(19) オーストラリア 81.86 4(13) オーストラリア 81.86
14(21) 中国 81.04 5(14) 中国 81.04
15(11) フィンランド 80.26 6(20) 韓国 75.92
16(17) サウジアラビア 79.83 7(25) タイ 72.51
17(16) アイスランド 78.93 8(27) インドネシア 71.52
18(13) ベルギー 77.87 9(32) ニュージーランド 68.18
19(15) カナダ 77.69 10(34) マレーシア 68.13
20(28) 韓国 75.92 11(38) 日本 64.96
36(39) ポルトガル 65.15 12(39) インド 62.56
40(44) スペイン 62.76 13(52) フィリピン 52.64
      14(61) モンゴル 46.36

注: LA順位の()内は世界ランクを表す。

「競争力調査2024に見るラテンアメリカ諸国の概要」

前述のようにラテンアメリカ諸国は、国際競争力の面ではアジア諸国に大きく後れを取っている。

表2から表7に従って、ラテンアメリカ7ヶ国の競争力について見てみよう。

「チリ」

*チリは、ラテンアメリカでは、競争力では第1位であるが、世界ランクの総合点では、67ヶ国中第44位である。項目別にみると総合点を上回っている項目は、政府の効率性(30位)とビジネスの効率性(40位)で、インフラ(45位)と経済パーフォーマンス(55位)では下回っている。

*コロナ以前の2019年から2024年の過去6年の総合点の推移をみると、ほぼ横ばい、やや悪化している。経済的パーフォーマンスは、19年の48位から24年の55位と悪化している。政府の効率性も26位から30位とランクを落としている。ビジネスの効率性は若干の変化はあるが、過去6年の変化はなく、41位である。インフラについては、47位から45位と少し改善がみられる。

*調査の実施主体であるIMDが国別の課題として各国の「Challenges」を発表しているが、チリのチャレンジを翻訳引用する。

– 政治システムを改革し、分断を減らしてガバナンスを強化する。

– 投資と成長を促進するため、法的不確実性を軽減する

– 警察活動を強化・支援することにより、治安を改善する。

– 新技術と人工知能を応用して生産性を向上させる。

– あらゆるレベルにおける教育の質と適切性を向上させる。

「メキシコ」

メキシコは67ヶ国中第56位である。項目別にみると総合点を上回っている項目は、経済パーフォーマンス(25位)とビジネスの効率性(53位)で下回っているのは、政府の効率性(53位)とインフラ(63位)である。

*6年前の2019年と比較すると総合点は50位から56位、政府の効率性では52位から60位、ビジネスの効率性は49位から53位、インフラは57位から62位に下落している、唯一経済パーフォーマンスは28位から25位に上昇している。

IMDによるメキシコの「Challenges」項目を翻訳引用する。

– 不確実性を軽減し、司法と治安を改善し、民主主義の枠組みを守ることによって、ビジネス環境を改善する。

– より良い教育とクリーンエネルギーのための構造改革を推進する。

– イノベーションを通じた国内市場の成長を促進することにより、GDPの高成長(3~4%)を促進する: 「メキシコ製品のためのメキシコ市場」。

– 世界の関連経済国との関係を改善する。

-メキシコにおけるニアショアリングを最大限に活用するための物流インフラを整備する。

「コロンビア」

コロンビアは、67ヶ国中第56位である。項目別にみると総合点を上回っている項目は、ビジネスの効率性(50位)のみで、経済パーフォーマンス(58位)、政府の効率性(64位)とインフラ(64位)の3分野で下回っている。

6年前の2019年と比較すると総合点は52位から58位、経済パーフォーマンスは55位から58位、政府の効率性では56位から64位、ビジネスの効率性は47位から50位、インフラは56位から64位とすべての面でランクを落としている。

IMDによるコロンビアのが「Challenges」項目を翻訳引用する。

– 最も脆弱な人々に影響を与える戦略的プロジェクトを推進する。
– 気候の影響に対する回復力を向上させる戦略を実施する。
– 農業における生産性格差を是正し、競争力を向上させる。
– グローバル・バリューチェーンへの参加を拡大する。
– より持続可能なモデルへのエネルギー転換を促進する。

「ブラジル」

ブラジルは、67ヶ国中第62位である。項目別にみると総合点を上回っている項目は、経済パーフォーマンス(38位)、インフラ(58位)、ビジネスの効率性(61位)の3部門で、政府の効率性(65位)では下回っている。

*2024年の数字をコロナ前の2019年に比較すると、大幅な改善が見られるのは、経済パーフォーマンスで57位から38位に上昇している。その他の項目では総合点では、59位から62位に、政府の効率性は62位から65位に、ビジネスの効率性では、57位から61位に、インフラでは54位から55位と下落している。

IMDによるブラジルの「Challenges」項目を翻訳引用する。

– 国民の質の高い基礎教育へのアクセスを大幅に改善する。
– ダイナミックな技術シフトに対応するため、専門家のスキルアップと再教育を行う。
– 経済の回復力と成長を高めるために、インフラと物流を改善する。
– 平等とインクルージョン
―最先端のイノベーションを開発する組織の能力

「ペルー」

ペルーは、67ヶ国中第63位である。項目別にみると総合点を上回っている項目は、政府の効率性(55位)、経済パーフォーマンス(60位)、ビジネスの効率性(60位)の3部門で、インフラ(63位)は総合順位と同じである。

2024年の数字をコロナ前の2019年に比較すると、すべての分野で順位が下落している。総合点では、55位から63位、経済パーフォーマンスで41位から60位、政府の効率性は49位から55位、ビジネスの効率性では、55位から60位に、インフラでは57位から63位と下落している。

IMDによるペルーの「Challenges」項目を翻訳引用する。

– 腐敗をなくし、公的機関を強化し、より大きな政治的安定を達成する。
– 競争力を高め、社会の進歩を実現する。
– 持続可能な発展を伴う経済成長を促進する。
– 地域により大きな影響を与える戦略的プロジェクトを実行する。
– ビジネス環境の改善:不確実性の低減、司法と治安の改善、民主主義の枠組みの強化

「アルゼンチン」

アルゼンチンは、67ヶ国中第66位である。項目別で総合点を上回っている項目は、インフラ(56位)と経済パーフォーマンス(62位)で、ビジネスの効率性(66位)は同順位、政府の効率性(67位)は最下位である。

2024年の数字をコロナ前の2019年に比較すると、全ての項目でランクを下げている。総合では61位から66位に、経済パーフォーマンスでは61位から62位に、政府の効率性では61位から67位に、ビジネスの効率性では59位から66位に、インフラは51位から56位と下落した。

IMDによるアルゼンチンの「Challenges」項目を翻訳引用する。

– 安定化プログラムを継続し、経済的影響を抑え、調整プロセス負担の社会的公平性を向上させる。
– 政治的・社会的結束の強化を通じて、経済の安定と投資環境の改善を支援する。
– 主要な価格決定セクターにおける競争と価格安定を促進し、中央銀行の独立性を強化する。
– 為替相場の規制を自由化し、現在の外国為替市場の細分化を解消する。
– 行政の強化と法の支配を強化し、裁量やレントシーキング行為を減らす。

「ベネズエラ」

ベネズエラは、67ヶ国中第67位と最下位である。項目別にみると、経済パーフォーマンス(66位)、政府の効率性(66位)、ビジネスの効率性(63位)、インフラ(67位)となっている。

2024年の数字をコロナ前の2019年に比較すると、全ての項目でランクを下げている。総合では63位から67位に、経済パーフォーマンスでは63位から66位に、政府の効率性では63位から66位に、ビジネスの効率性では59位から66位に、インフラでは63位から67位に下落している。

IMDによるベネズエラの「Challenges」項目を発表しているが、翻訳引用する。

– 規制の枠組みを強化する。 投資家は法律と公的機関に対する信頼を必要としている。
– 低賃金と高インフレが民間消費を制限し、経済を不安定にしている。米国の制裁緩和は、石油セクターと経済の刺激となりうる。
– 家庭や産業のための基本的なサービスやインフラの問題を解決する。
– 行政手続きを簡素化し、高い税負担を軽減する。
– 優れたプロジェクトや生産能力拡大に熱心な企業に対する資金調達へのアクセス不足。

最後に、日本の状況を見てみよう。

「日本」

日本は、67ヶ国中第38位と前回から3ポイント落としている。項目別にみると、経済パーフォーマンス(21位)、政府の効率性(42位)、ビジネスの効率性(51位)、インフラ(23位)となっている。経済パーフォーマンスとビジネスの効率性でそれぞれ5ポイントと4ポイントを落としている。

2024年の数字をコロナ前の2019年に比較すると、全ての項目でランクを落としている。総合では30位から38位に、経済パーフォーマンスでは、16位から21位に、政府の効率性では、38位から42位に、ビジネスの効率性では46位から51位、インフラでは15位から23位である。由々しき事態というべきであろう。

IMDによる日本の「Challenges」項目を発表しているが、翻訳引用する。

-人材、新興企業、イノベーションへの投資により生産性を高める。
-リスキル、キャリアの柔軟性、流動性を通じた労働市場改革を推進する。
-人口減少と高齢化の問題に取り組む。
-財政バッファーを再構築し、財政の枠組みを強化する。
-グリーン経済への移行。

表2 世界競争力ランキング2024から見たラテンアメリカ諸国の総合順位と項目別順位

国名 総合 経済パーフォーマンス 政府の効率性 ビジネスの効率性 インフラ
チリ 44位 55位 30位 41位 45位
メキシコ 56位 25位 60位 53位 62位
コロンビア 57位 58位 64位 50位 64位
ブラジル 62位 38位 65位 61位 58位
ペルー 63位 60位 55位 60位 63位
アルゼンチン 66位 62位 67位 66位 56位
ベネズエラ 67位 66位 66位 63位 67位
対象国数 67ヶ国 67ヶ国 67ヶ国 67ヶ国 67ヶ国

表3 競争力調査の総合(Overall)ランキングの推移(2019年~2024年)

国名 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 44位 44位 45位 44位 38位 42位
Peru 63位 55位 54位 58位 52位 55位
Mexico 56位 56位 55位 55位 53位 50位
Colombia 57位 58位 57位 56位 54位 52位
Brazil 62位 60位 59位 57位 56位 59位
Argentina 66位 63位 62位 63位 62位 61位
Venezuela 67位 64位 63位 64位 63位 63位
             
Spain 40位 36位 36位 39位 36位 36位
Japan 38位 35位 34位 31位 34位 30位

表4 経済パーフォーマンス(Economic Performance)から見たランキングの推移(2019年~2024年)

国名 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Mexico 25位 30位 27位 49位 38位 28位
Colombia 58位 37位 45位 56位 45位 55位
Brazil 38位 41位 48位 51位 56位 57位
Chile 55位 52位 50位 53位 50位 48位
Peru 60位 53位 40位 60位 51位 41位
Argentina 62位 59位 57位 59位 60位 61位
Venezuela 66位 64位 63位 64位 63位 63位
             
Spain 27位 32位 35位 42位 31位 29位
Japan 21位 26位 20位 12位 11位 16位

表5 政府の効率性(Government Efficiency)から見たランキングの推移(2019年~2024年)

国名 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 30位 32位 30位 22位 20位 26位
Peru 55位 50位 52位 48位 40位 49位
Mexico 60位 60位 60位 59位 55位 52位
Colombia 64位 61位 59位 58位 56位 56位
Brazil 65位 62位 61位 62位 61位 62位
Venezuela 66位 63位 62位 63位 62位 63位
Argentina 67位 64位 63位 64位 63位 61位
             
Spain 58位 51位 50位 49位 44位 40位
Japan 42位 42位 39位 41位 41位 38位

 

表6 ビジネスの効率性(Business Efficiency)から見たランキングの推移(2019年~2024年)

国名 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 41位 45位 41位 40位 37位 41位
Mexico 53位 51位 47位 47位 48位 49位
Peru 60位 53位 53位 53位 50位 55位
Colombia 50位 59位 60位 51位 52位 47位
Venezuela 63位 60位 62位 62位 60位 62位
Brazil 61位 61位 52位 49位 47位 57位
Argentina 66位 63位 63位 63位 62位 59位
             
Spain 38位 37位 40位 39位 42位 39位
Japan 51位 47位 51位 48位 55位 46位

表7 インフラ(Infrastructure)から見たランキングの推移(2019年~2024年)

国名 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年 2019年
Chile 45位 46位 47位 45位 45位 47位
Brazil 58位 55位 53位 52位 53位 54位
Argentina 56位 56位 54位 56位 52位 51位
Colombia 64位 57位 56位 53位 56位 56位
Mexico 62位 59位 58位 58位 57位 57位
Peru 63位 60位 59位 60位 60位 57位
Venezuela 67位 64位 63位 64位 63位 63位
             
Spain 27位 27位 25位 26位 26位 26位
Japan 23位 23位 22位 22位 21位 15位

表8 IMDのラテンアメリカ主要国の提携組織

国名 提携組織名(Partner Institution)
Argentina Shaw Institute for Business Research

Catholic University of Argentina

Brazil Federacao Dom Cabral, Innovation and Entrepreneurship Center
Chile Universidad de Chile,Facultad de Economia y Negocios
Colombia National Planning Department
Mexico Center for Strategic Studies for Competitiveness
Peru Centrum PUCP
Venezuela National Council to Investment Promotion(CONAPRI)

過去に掲載された競争力関連のレポートは下記の通り。

連載レポート50 桜井悌司 「統計に見るラテンアメリカ 人間開発指数2020」(2020年9月掲載)
連載レポート119 桜井悌司 「世界競争力ランキング2023から見たラテンアメリカ(2023年9月掲載)」
連載レポート 125 桜井悌司「世界人材競争力指数2023に見るラテンアメリカ」(2023年12月掲載)
連載レポート 131 桜井悌司「人間開発指数2022に見るラテンアメリカ」(2024年4月掲載)

以  上