連載レポート148:桜井悌司「世界報道の自由指数2025に見るラテンアメリカ」 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート148:桜井悌司「世界報道の自由指数2025に見るラテンアメリカ」


連載レポート148

世界報道の自由指数2025に見るラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)

今年も5月3日の「世界報道の自由デー」に「世界報道の自由指数2025」(World Press Freedom Index 2025)が発表された。パリに本部を置く「国境なき記者団」が2002年より開始したもので、今年も昨年と同様世界180カ国を対象としている。

国境なき記者団によれば、「報道の自由とは、個人および集団としてのジャーナリストが、政治的、経済的、法的、社会的干渉を受けず、身体的・精神的安全に対する脅威がない状態で、公共の利益のためにニュースを選択、制作、普及する能力を指す」と定義している。

この定義に基づき、報道の自由に関するアンケートとマップは、5つの明確なカテゴリーまたは指標(政治的背景、法的枠組み、経済的背景、社会文化的背景、安全)に分類されている。

1.「世界報道の自由指数2025」の概要

この指数にしたがって、世界の報道の自由をスコアによって5つのカテゴリーに分けている。すなわちGood(良好)、Satisfactory(満足) 、Problematic(問題あり)、Difficult(困難) 、Very serious(非常に深刻)である。2025年の指数によると、対象180ヶ国のうち、良好が7ヶ国(8・8)、満足が35ヶ国(44・37)、問題ありが48ヶ国(55・50)、困難が48ヶ国(42・49)、非常に深刻が42ヶ国(31・36)となっている。( )内は2024年と2023年の数字であるが、明らかに世界的にみて、報道の自由度は極度に悪化していることが理解できる。

いつもながら上位に位置する国は欧州諸国で、下記表1の通り、ベスト15は全て欧州諸国である。注目すべきは、エストニアが6位から2位に、チェコが17位から10位に躍進したことであろう。アジア諸国では、1位は台湾で27位から24位に、2位は韓国で62位、日本は順位を4つ上げ、66位であった。ちなみに、ワースト・スリーは、エリトリア(180位)、北朝鮮(179位)、中国(178位))である。ちなみに、ロシアは171位、イランは176位である。

日本は、今回の調査でもG7中最下位で、報道の自由と多様性が一般的に尊重されているものの、政府と企業が主要メディアの経営陣に圧力をかけることが常態化していると指摘。昨年と同様、記者クラブ制度が自己検閲やクラブ外の記者、外国人ジャーナリストらへの差別につながっているとしている。マスコミ関係者による認識と事態の改善努力が求められる。

表1 世界報道の自由指数2025による世界とラテンアメリカ・カリブ諸国のランキング

世界順位 国名 得点 LA順位 国名
1位(1) Norway 92.31 ① 17/180 Trinidad T
2位(6) Estonia 89.46 ② 25/180 Jamaica
3位(4) Netherlands 88.64 ③ 32/180 Suriname
4位(3) Sweden 88.13 ④ 36/180 Costa Rica
5位(5) Finland 86.13 ⑤ 43/180 Dominica R.
6位(2) Denmark 86.93 ⑥ 47/180 Belize
7位(8) Ireland 86.92 ⑦ 53/180 Panama
8位(7) Portugal 84,26 ⑧ 59/180 Uruguay
9位(9) Switzerland 83.98 ⑨ 63/180 Brazil
10位(17) Chichia 83.96 ⑩ 69/180 Chile
11位(10) Germany 83.86 ⑪ 73/180 Guyana
12位(15) Liechtenstein 83.42 ⑫ 84/180 Paraguay
13位(11) Luxemburg 83.64 ⑬ 87/180 Argentina
14位(13) Lithuania 81.7 ⑭ 93/180 Bolivia
15位(12) Latvia 81.82 ⑮ 94/180 Ecuador
20位(23) UK 78.89 ⑯ 111/180 Haiti
21位(21) France 78.65 ⑰ 115/180 Colombia
24位(27) Taiwan 77.04 ⑱ 124/180 Mexico
57位(55) USA 65.49 ⑲ 130/180 Peru
62位(62) Korea 64.87 ⑳ 135/180 El Salvador
66位(70) Japan 63.14 ㉑ 138/180 Guatemala
162位(162) Russia 29.86 ㉒ 142/180 Honduras
172位(178) China 14.8 ㉓ 160/180 Venezuela
177位(179) North Korea 12.64 ㉔ 165/180 Cuba
23位(30) Spain 77.04 ㉕ 172/180 Nicaragua

注:世界順位の( )内は2024年調査のランキング。

2.「世界報道の自由指数2025」にみるラテンアメリカの動向

2025年のラテンアメリカ諸国の上位ランキングについては、表1の通りであるが、1位、トリニダード&トバゴ、2位、ジャマイカ、3位、スリナム、4位、コスタリカ、5位、ドミニカ共和国、6位、ベリーズ、7位、パナマとベスト7はすべてカリブ海・中米諸国である。これを5つのステージに分類すると下記の表2となる。「良好」のカテゴリーに入る国は0で、「満足すべき」は、トリニダード・トバゴ、ジャマイカ、スリナム、コスタリカの4ヶ国(2023年の調査では8ヶ国)。「問題あり」のカテゴリーには、ドミニカ共和国、ベリーズ、パナマ、ウルグアイ、ブラジル、チリ、ガイアナ、パラグアイ、アルゼンチンの9ヶ国(8ヶ国)、「困難」には、ボリビア、エクアドル、ハイチ、コロンビア、メキシコ、ペルー、エルサルバドル、グアテマラの8ヶ国(8ヶ国)。最悪の「非常に深刻」には、ホンジュラス、ベネズエラ、キューバ、ニカラグア、の4ヶ国(4ヶ国)が入っている。

次に表3はラテンアメリカ諸国の2025年調査結果による総合点と5つの部門別のスコアである。これによって、どの部門が弱体なのか、総合点の上昇、下降に関係しているのかが理解できる。昨年に続き、各国の総合スコアと5つの部門別スコアに基づき、対象のラテンアメリカ25カ国で、どの部門のスコアが、総合スコアを上回っているか下回っているかを調べたものが表4である。総合点の上昇に貢献している部門は、社会文化面と法制度面であるが、社会文化面での悪化が見られるのは懸念される。反対に上昇の足を引っ張っている部門は、経済面と政治面である。治安面については、やや好転していることがわかる。

表2 ラテンアメリカ諸国の評価のステージ別分類(2025年)

評価 得点 国名 国数
良好good 85点~100点 None 0(0)
満足すべきsatisfactory 70点~85点 Torinidad T, Jamaica, Suriname,

Costa Rica

4(5)
問題ありproblematic 55点~70点 Dominican Rep. Belize Panama, Uruguay,  Brazil, Chile,   Guyana, Paraguay, Argentina 9(8)
困難

difficult

40点~55点 Bolivia, Ecuador, Haiti, Colombia, Mexico, Peru, El Salvador, Guatemala 8(8)
大変深刻

very serious

0点~40点 Honduras, Venezuela, Cuba, Nicaragua 4(4)

注:国数の( )は2024年の数字。

表3 2025年調査における総合及び部門別得点

順位 国名 総合 政治 経済 法制度 社会・

文化

治安
19/180 Torinidad T 79.71 71.48 69.97 78.64 84.12 94.34
26/180 Jamaica 75.83 64.24 66.67 76.19 80.88 91.15
32/180 Suriname 74.49 62.37 69.66 73.13 76.59 90.71
36/180 Costa Rica 73.09 49.96 61.69 85 76.68 92.13
43/180 Dominican R 69.87 68.62 51.5 84.42 77.71 67.13
47/180 Belize 68.31 53.15 48.25 63.99 81.36 94.83
53/180 Panama 66.75 54.14 55.07 63.15 71.36 90
59/180 Uruguay 65.18 48.64 42.52 76.72 67.15 90.89
63/180 Brazil 63.9 61.52 47.29 66.81 61.3 82.11
69/180 Chile 62.25 65.01 41.94 64.1 57.77 82.41
73/180 Guyana 60.12 40.27 48.23 61.8 65.97 84.31
84/180 Paraguay 56.84 43.26 40.09 66.85 55.24 78.77
87/180 Argentina 56.14 38.91 35.49 71.81 55.85 78.64
93/180 Bolivia 54.09 34.87 37.3 62.41 62.06 72.8
94/180 Ecuador 53.76 41.27 43.93 58.75 53.18 71.68
111/180 Haiti 51.06 48.58 37.03 60.68 67.21 41.8
115/180 Colombia 49.8 48.5 35.43 69.16 45.8 50.12
124/180 Mexico 45.55 47.86 36.59 60.88 54.72 27.7
130/180 Peru 42.88 31.86 35.42 53.21 44.72 49.19
135/180 El Salvador 41.19 23.95 41.11 47.2 46.26 47.4
138/180 Guatemala 40.32 39.36 33.39 54.12 37.16 37.56
142/180 Honduras 38.51 30.22 31.38 46.3 41.01 43.62
160/180 Venezuela 29.21 14.5 29.6 36.49 37.25 28.19
165/180 Cuba 26.03 13.75 19.07 18.24 35.46 43.64
172/180 Nicaragua 22.83 14.76 24.84 19.88 30.08 24.6
               
66/180 Japan 63.14 54.21 53.45 67.19 54.44 85.43

注:①Global score  ②Political indicator  ③Economic indicator  ④Legislative indicator ⑤Sociocultural indicator  ⑥Security indicator

表4 各国の総合点と部門別点の関係

  政治 経済 法制度 社会文化 治安
総合点より上回っている国数 1(2・10) 2(1・4) 19(19・17) 17(22・22) 20(18・13)
総合点より下回っている国数 24(23・15) 23(24・21) 6(6・8) 8(3・3) 5(7・12)

注:( )内は24年・23年の数字

続いて、表5は過去6年(2020年~2025年)のラテンアメリカ諸国25カ国のランキングの推移を表す。この表5に基づき、2025年と2024年の過去1年間のランクの推移を見たのが、表6の「2024年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト」である。

これによると大きくランクを上昇させた国は、毎年変化するが、パラグアイ、ボリビア、パナマ、ブラジル、エクアドル等である。反対に大きくランクを落とした国は、アルゼンチン、ハイチ、チリ、コスタリカ等である。

表7は、中期の観点からのランクの上昇・下落をみるために、コロナ前の2020年(データは2019年をベースにしている)と2025年のランクを比較したものである。対象となる25ヶ国で調べたところ、ランクの上昇を見た国は、12ヶ国で、下落した国は、13ヶ国となっている。

表5 過去6年の世界ランクの推移(2020年~2025年)

LA

順位

国名 世界

2025

世界

2024

世界

2023

世界

2022

世界

2021

世界

2020

1位 Trinidad T 17 25 30 25 31 36
2位 Jamaica 26 24 32 12 7 6
3位 Suriname 32 28 48 52 19 20
4位 Costa Rica 36 26 23 8 5 7
5位 Dominican Reo. 43 35 42 30 50 54
6位 Belize 47 54 51 77 53 53
7位 Panama 53 83 69 74 77 76
8位 Uruguay 59 51 52 44 18 19
9位 Brazil 63 82 92 110 111 107
10位 Chile 69 52 83 82 54 51
11位 Guyana 73 77 60 34 30
12位 Paraguay 84 115 103 96 100 100
13位 Argentina 87 66 40 29 69 64
14位 Bolivia 93 124 117 126 110 114
15位 Ecuador 94 110 80 69 91 98
16位 Haiti 111 93 97 70 87 83
17位 Colombia 115 119 139 145 134 130
18位 Mexico 124 121 128 127 143 143
19位 Peru 130 125 110 77 91 97
20位 El Salvador 135 133 115 112 82 74
21位 Guatemala 138 138 127 124 116 116
22位 Honduras 142 146 169 165 151 148
23位 Venezuela 160 156 159 159 148 147
24位 Cuba 165 168 172 173 171 171
25位 Nicaragua 172 163 158 160 121 117
     
Japan 66 70 68 71 67 66

表6 2024年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト

ランクが上昇した国  11ヶ国(14ヶ国) ランクが下降した国  13ヶ国(10ヶ国)
Paraguay(+31),Bolivia(+31),Panama(+30),Brazil(+19),Ecuador(+16),Trinidad T(+8),Belize(+7), Guyana(+4), Colombia(+4),Honduras(+4), Cuba(+3), Argentina(-21),Haiti(-18),Chile(-17),Costa Rica(-10),Nicaragua (-9),Dominican Rep.(-8), Uruguay(-8),Peru(-5),Suriname(-4),Venezuela(-4),Mexico(-3),Jamaica(-2),El Salvador(-2)

注:Guatemalaは変化なし

表7 コロナ前の2020年比でランクが上昇した国、下降した国のリスト

ランクが上昇した国  12ヶ国(11ヶ国) ランクが下落した国  13ヶ国(13ヶ国)
Brazil(46),Panama(23),Bolivia(21),Trinidad T(+19), Mexico(+19), Paraguay (+16), Colombia(+15),Dominican R.(+11), Belize(+6),Cuba(+6),Honduras(+6),Ecuador(+4) El Salvador(-61), Nicaragua(-55), Guyana(-43), Uruguay(-40),Peru(-33), Costa Rica(-29), Haiti(-28),Argentina(-23),Guatemala(-22), Jamaica(-20), Chile(-18), Venezuela(-13), Suriname(-12)

注:Guyanaは2021年比  国数の( )内は、2024年の数字

3)「世界報道の自由指数2024」にみる「国境なき記者団」によるラテンアメリカに関するコメント

本レポートを作成する「国境なき記者団」は全体の総評と地域別の評価をコメントしている。ラテンアメリカについての主要なポイントを以下引用する。

*メディアの経済的脆弱性が民主主義の亀裂を深める。アメリカ大陸のジャーナリズムは、メディアの集中、脆弱な公共機関、不安定な労働条件など、構造的・経済的な課題に直面している。

*米国の大失敗:メディアの閉鎖、ニュース砂漠、偽情報   米国(57位)では、ドナルド・トランプの大統領2期目によって、報道の自由が憂慮すべきほど悪化している。

*権威主義の台頭で高まるジャーナリストへの圧力  米国以南では、権威主義的傾向がこの地域で最も急落しているいくつかの要因となっている。

*アルゼンチン(87位)では、ハビエル・ミレイ大統領がジャーナリストに汚名を着せ、公共メディアを解体し、国営広告を武器にしている。この国は2年間で47位も順位を下げた。

*報道の自由はペルー(130位)でも急激に低下しており、ジャーナリストへの法的嫌がらせ、偽情報キャンペーン、独立した報道機関への圧力の増加により、2022年以来53位も順位を下げている。

*エルサルバドル(135位)は下降を続け、2020年以降61位下がった。ナイブ・ブケレ大統領の下、報道の自由はプロパガンダと当局を批判する報道機関への組織的攻撃によって損なわれている。

*ブラジル(63位)はボルソナロ時代の敵対的な環境から回復を続け、2022年以降47位上昇した。ブラジルの報道機関は圧力や脅迫にさらされにくくなっており、ブラジルはこの地域で経済指標を押し上げた数少ない国のひとつとして際立っている。

*同地域で最もジャーナリストの死者が多い国であるメキシコ(124位)は、メディアのエコシステムの持続可能性がますます脆弱になっていることもあり、順位を3つ下げた。

*一方、コロンビア(115位)は安定した総合スコアを維持した。報道の自由に対する政府のスタンスは依然として一貫しておらず、メディアの多元性を向上させるためにローカル、コミュニティベース、オルタナティブ・アウトレットを推進する政策と、主流メディアに対するペトロ大統領の非常に対立的なレトリックとが交互に繰り返されている。同時に、ジャーナリストは依然として根強い安全保障上の脅威に直面している。

*ニカラグア(172位)は、ラテンアメリカで最悪の国であり、キューバ(165位)をも下回る。オルテガ=ムリーリョ政権は、独立メディアを解体し、ジャーナリストの市民権を剥奪し、何百人もの報道関係者を亡命させた。ベネズエラ(160位)は依然として最悪の国のひとつであり、記者に対する検閲と司法の迫害が蔓延している。ハイチ(111位)では、国家の崩壊とギャングの暴力が、ジャーナリズムを生命を脅かす職業に変えてしまった。                                 以  上

なお過去に筆者が執筆した「世界報道の自由指数」関連のレポートは下記の通り。適宜参照いただきたい。

連載レポート47 統計に見るラテンアメリカ 報道の自由ランキング 2020年7月
https://latin-america.jp/archives/43967

連載レポート71 「統計に見るラテンアメリカ」その後のフォロー 2021年10月
https://latin-america.jp/archives/50063

連載レポート103 インターネット自由度ランキング2022とラテンアメリカ
2022年11月   https://latin-america.jp/archives/55434

連載レポート113 世界報道の自由度指数2023とラテンアメリカ 2023年6月
https://latin-america.jp/archives/58237

連載レポート 124 桜井悌司「インターネット自由度ランキング2023とラテンアメリカ」 2023年12月
https://latin-america.jp/archives/60610

連載レポート 133:桜井悌司「世界報道の自由指数2024に見るラテンアメリカ」2024年5月
https://latin-america.jp/archives/62506

連載レポート 142:「インターネット自由度ランキング2024」2024年11月
https://latin-america.jp/archives/64430