連載エッセイ145:桜井悌司「ラテン好きのためのリベラルアーツ」シリーズの執筆を終えて - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ145:桜井悌司「ラテン好きのためのリベラルアーツ」シリーズの執筆を終えて


連載エッセイ142

桜井悌司「ラテン好きのためのリベラルアーツ」シリーズの執筆を終えて

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

1)はじめに

ラテンアメリカ協会のホームページの「投稿欄」に2021年4月から12月まで、12回にわたって、「ラテン好きのためのリベラルアーツ」というタイトルで連載しました。執筆の意図は、ラテンアメリカに関心のある方々、駐在員の皆様が、現地の友人、知人と懇談する時の話題を提供するためのものです。文化とスポーツの分野におけるラテンアメリカの著名人を重点的に紹介しました。12回の内容は下記の通りです。

1.ラテンアメリカのノーベル賞受賞者
https://latin-america.jp/archives/47612
2.ラテンアメリカの国花と国鳥
https://latin-america.jp/archives/48057
3.ラテンアメリカ出身のメジャーリーガーたち
https://latin-america.jp/archives/48060
4.ラテンアメリカの著名サッカー選手
https://latin-america.jp/archives/48452
https://latin-america.jp/archives/48545
https://latin-america.jp/archives/48547
5.ラテンアメリカの歴代オリンピック・ゴールドメダリスト
https://latin-america.jp/archives/49001
6.ラテンアメリカの著名建築家
https://latin-america.jp/archives/49005
7.ラテンアメリカの著名作家たち
https://latin-america.jp/archives/49361
https://latin-america.jp/archives/49364
8.ラテンアメリカの著名ボクサー
https://latin-america.jp/archives/49659
9.ラテンアメリカの著名画家たち
https://latin-america.jp/archives/50066
10.ラテンアメリカの著名作曲家たち
https://latin-america.jp/archives/50693
11.ラテンアメリカの国際空港と人名
https://latin-america.jp/archives/50691
12.ラテンアメリカ主要国の紙幣と人名
https://latin-america.jp/archives/50969

2)読者のコメント

執筆終了後、ラテンアメリカに造詣の深い方々に送付し、様々なコメントをいただきましたので、下記に紹介させていただきます。総じて好評だったので喜んでいます。

*ラテンアメリカ協会はこれまでラ米の政治経済に特化してきましたが、こういう企画もあると個人会員の獲得につながるかも知れませんね。

*中南米では、食事をゆっくりと食べて話が弾みますので、教養力、雑談力は、絶対に欠かせません。その点で、自分自身の教養力、雑談力の弱さを痛感したことしばしばでした。もう一つは、小話でしょうか。みんな競って話したりするので、盛り上がって時間のたつのも忘れるほどでした。いただいた情報、しっかり保存しまして、参照させていただきます。

*中南米の文学者には外交官が多い印象でしたが、改めてリストを見ても目立ちますね。日本もいろいろな文化人を主要国大使館の文化アタッシェに起用して期間限定でもいいから広報・交流してもらえばよいのにと思います。日本外務省では在外勤務の新人がまず文化担当にされることが多いという実態があります。

*今回送って頂いたものをざーと読ませていただきましたが、これだけのものを短期間で(或いは以前から仕込まれていたのかも知れませんが)お調べになったことに敬意を表します。私にとって一番参考になったのは「ラテンアメリカの著名作家」の部分です。これを20年ほど前に知識として持っていれば、(日本語であれ原語であれ)系統立てた形でラ米文学書を読んでいたでしょうから、もう少し文学的匂いのする外交活動ができたのにと残念でなりません。でも、今からでも遅くないと思いさえすれば良いわけですので、今後大いに活用させて頂きます。

*この種の情報は、講演等でも使えますし、なによりもラテン好きをもっと大好きにさせるものですね。中南米部のみならず、中南米在外拠点の同僚にも共有し、協会のHpにもアクセスするように伝えておきますね。

*資料ありがたいです。来期の授業で活用させてもらいます。

*是非とも周辺諸国に行くときや訪問客の対応時に参考にさせて頂きます。ブラジルで言えば、いきなりビジネスの話の前にサッカーとか著名人、時の話題のスター、あるいはジョークを披露しないと上手く行かないし又豆知識(教養)をどれだけ持っているかどうかで、尊敬される上にお互い心が許し合える友人になれます。(釈迦に説法)これだけ、纏められていると周辺地域への旅行時にも使えるし、いつでも利用できる様に保存させて頂きます。特に相手国の政府関係者と会う際には、このブックは必須有用です。

*今、対面と遠隔の授業を複数担当していますので、このような情報は役に立ちます。

*ラテンアメリカに関心のある学生などにとってはどの切り口からでも参考になる資料だと思いました。

3)何故このシリーズを執筆したのか?

このシリーズを連載するに至った動機は、私自身の教養力、雑談力の不足を実感したからです。ラテンアメリカには、メキシコ、チリ、ブラジルの3カ国で10年駐在しました。加えてスペインとイタリアに5年半過ごしましたので、ラテン系の国々に合計15年半住んだことになります。数年前に現役を卒業し、年金生活に入ったこともあり、活動範囲は大きく狭まっています。当然ながら、ラテンアメリカの方々と話す機会は少なくなっています。

メキシコやチリ駐在中には、時折、現地の友人の家に呼ばれたり、呼んだりしたこともありました。その際でも、相手の家に呼ばれた時は、あっという間に時間が過ぎ、気が付くと、優に12時を過ぎていました。反対にこちらが招く時には、午後11時頃になると、話題も途切れ、疲労困憊で、早く終わればいいなと思うほどでした。またラテンの人々は食事に時間をかけます。昼食でも2時間を超えることも度々あります。話題もビジネスのことだけでなく、政治、経済、社会、家族、趣味、映画、演劇、文学、音楽、芸術、スポーツ等広範囲に及びます。食事をすると一気に相互の関係が緊密になり、以後のアポイント取得など一気に容易になりますので、重要なチャンスです。とりわけ、ジェトロのように、情報が重要な役割を果たす組織では、人脈開拓が必須です。

私自身、ラテンの人々と食事を重ねた経験は、たぶん人並み以上だと思っています。とりわけ、チリ、イタリア、ブラジルでロータリークラブに入会していましたので、食事回数は十分です。ロータリークラブでは、毎週昼食会があり、毎回異なる人々と食事をしながら話していたこともあり、かなり慣れていると思っていましたが、それでも雑談力が不足しているなといつも感じていました。

関係分野の書籍をたくさん読んだり、映画、音楽、オペラ、演劇を鑑賞したり、スポーツ観戦をしたり、美術館、博物館を多数訪問したり、あちこちに旅行したりして、教養力、雑談力を強化しようと最後まで頑張りました。また友人や知人との会話を通じて様々な分野の情報入手にも努めましたが、なかなか思うようなレベルまでには達しませんでした。そこで、いつか文化やスポーツをカバーする人名録のようなものが出来れば少しはお役に立つのではないかと考えました。現役を引退し、さらに2020年初めから新型コロナウイルスの感染で時間もできましたので、同じような思いを持つ日本人ビジネスパーソンのために何かお役に立つ話を書いてみようという気になりました。

4)シリーズを執筆するにあたって迷ったこと

このシリーズを始めるにあたって考えたことは、①どういうテーマを選ぶのか、②どういう人物を選定するのか、③どういう情報源を使いまとめるのか、④このシリーズをどのように利用してもらいたいのか の4つの点です。以下説明します。

1.どういうテーマを選ぶのか?

12回シリーズの内、2)の「国花と国鳥」以外は、すべてラテンアメリカのスポーツ関係や文化関係の著名な人々を取り上げたものです。その理由は、最も話題や雑談にふさわしいからです。スポーツの話をするといつも大いに盛り上がります。とりわけラテンアメリカ全域で人気のあるサッカーはいつでもどこでも話題になります。野球は、ドミニカ共和国、キューバ、ベネズエラ、メキシコを中心とする国々で人気があり、米国のメジャーリーグも彼らの存在なくしては成り立たない感じです。ボクシングもメキシコを中心に優れた世界レベルのボクサーを輩出しています。オリンピックは、日本ほど人気はありませんが、特定の強い種目での選手の活躍には関心を持っています。

文化面では、「ノーベル賞受賞者」、「小説家・詩人」、「画家」、「建築家」、「作曲家」を選択しました。また特定の分野ではなく、広範囲な人物像が見られる「国際空港と人名」、「紙幣にみる人名」を取り上げました。これらによって、各国がどういう発想で空港や紙幣に反映させているのかを見ることができます。他にも、「歌手」、「映画・テレビ俳優」等も考えましたが、手に負えない感じなので取りやめました。文化面の話をしますと、相手のこちらに対する態度が変化します。自分たちの文化を外国人が評価したり、コメントするというのは嬉しいことに違いありません。ある種の敬意感が出て来るのです。それは、外国人が日本の文学、絵画、建築、演劇、音楽、アニメ等について語ると我々も嬉しくなるのと同様です。

2.どういう人物を選定するか?

次に迷ったのは、どういう基準で人名を選択するのか、ということでした。割合簡単なのは、「ノーベル賞受賞者」、「建築家」、「オリンピックのゴールドメダリスト」、「国際空港と人名」、「紙幣にみる人物」でした。各種賞の受賞者や実際に現在使用されている空港や紙幣の顔だからです。

「小説家・詩人」については、スペインやラテンアメリカの文学賞受賞者を中心に、内外の文学専門家の意見を参考にして選びました。私も大学時代に大阪とマドリードでイスパノアメリカ文学史の授業を採っていたのでその経験が役立ちました。「サッカー選手」については、ワールドカップ等での活躍、得点王等の実績やサッカーの名選手や専門家の考える名プレーヤ―のリストなどを参考にしました。私もサッカーフアンなので自分の意見も取り入れました。「メジャー・リーガ―」については、野球の殿堂入り、投手成績、首位打者、打点王、ホームラン王、オールスター出場回数等を参考にしました。「ボクサー」は、殿堂入り、チャンピオン、防衛回数、KO率を参考にしました。「画家」、「作曲家」については、ある程度の情報は持っていましたが十分には程遠いこともあり、インターネットでラテンアメリカや各国の著名な画家や作曲家を検索し、大まかなリストをつくり、各国とのバランスを考え選定しました。最初から完璧なリストを作成することはほぼ不可能です。したがって、読者の皆様が本資料を基にして、改善していただければと願っています。

3.どういう情報源を使いまとめるのか?

次に各人名を3~10行にまとめる作業が出てきます。まずインターネットで日本語による検索行いました。その人物がどの程度、日本でも知名度があるかどうかを知るためです。中にはウイキペデイアで大きく取り上げられている人物もいましたが、多くは情報が極めて少ない感じでした。その次のステップは英語による検索です。日本語の検索に比較し、はるかに多くの情報を入手できます。最後に、人物の出身国に従い、スペイン語やポルトガル語で調べます。こういう手順で進めると一人の人物の簡単な紹介でもかなりの時間がかかるということがわかっていただけると思います。人名は生誕年の順に並べていますので、大まかな時代を知っていただくために、生誕年と死亡年を入れてあります。加えて、私の知っている情報も少し入れることにしました。

4.このシリーズをどのように利用してもらえるのか?

どんなことでも当てはまりますが、最初から完全に近いものを作成することは不可能ですし、完全なものを作ろうとすれば、何も始めることができません。また、最初に作るのは大変ですが、改訂版を出すことはそれほど難しくありません。

まずざっと目を通していただき、自分の関心のあるテーマや関心のある国をチェックし、頭の中に入れておきます。次にその国の人々と食事等をする場合、その国に関するスポーツや文化情報を整理し、話せるような状況にしておくことです。例えば、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、チリなどに駐在される場合は、原稿の中から、その国だけを選び、テーマ毎の人名録を作成されることをお勧めします。また近隣諸国に出張される場合は、その国の人名録を作り、出張地で話題にすることもできます。

文学などは、事前に読んだり、絵画、建築等については、インターネットで作品を見たりすることもできますし、サッカー、野球、ボクシングや音楽などはYOU TUBEでも相当程度見ることができます。このように、少しずつ教養度を深めていくのです。

今回のシリーズは、初めての試みですので、ご覧いただき、追加、削除、変更等がありましたら、修正していただければと思います。今後これらのレポートを元にして、国別の人名録的なものを作成します。

以    上